さくら共同法律事務所

私的整理と中小企業再生支援協議会

 最近、中小企業再生支援協議会が関与する私的整理案件に参加する機会がありました。ところで、そもそも「私的整理」とは具体的に何なのか、また「中小企業再生支援協議会」とは一体何をする組織なのかという点について、一般の方はほとんど馴染みがないと思われますので、この場を借りてご紹介させて頂きます。(なお念のため、以下の記載に個別の案件に関する情報は一切含んでおりません。)



1 私的整理とは


 「私的整理」とは、現在の一般的な用語法では、窮境に陥った企業について行われる、事業再生を目的とした一連の手続で、裁判所を利用しないものをいうと理解されています。この私的整理では具体的に何が行われるかといいますと、大まかに言えば、①企業が「合理的な再生計画案」を作成する、②債権者と協議を行い、①の再生計画案について債権者に同意してもらう、の2つとなります。つまり私的整理の実質を一言で言えば、「債権者に、再生計画案に対して同意してもらうための一連の手続」となります。なお②の協議の対象となる債権者は、債務者で選択できますが、一般的には、金融機関である債権者の全員又はその大部分としています。


 ここで①の「合理的な再生計画案」には、(i)経営改善策、(ii)今後の弁済計画、及び(iii)債務の一部免除の要請などが通常含まれます。そして、再生計画案の内容が合理的なものである限り、金融機関である債権者は、この計画案に同意する可能性が高いです。つまり企業が、①の「合理的な再生計画案」を立案できるかどうかが、私的整理が成功するか否かの大きな分かれ目となります(なお再生計画を立案する前提として、当該企業の実態を精査する必要があり、これをデューディリジェンス(DD)といいます)。



2 中小企業再生支援協議会の役割


 多くの中小企業にとって、独力で①の「合理的な再生計画案」を立案することはほぼ不可能であり、専門家の助力が不可欠です。しかし、中小企業にとって、そのような再生計画立案のスキルのある専門家を探し出すことは難しく、この点で高いハードルがありました。この点を解決するのが「中小企業再生支援協議会」(※)であり、協議会が再生計画策定支援を開始した場合、協議会において、専門家の紹介や専門家費用の補助を行ってくれるのです。協議会が紹介する専門家(「個別支援チーム」といいます)は、事業再生に関する知識と経験を有する方であり、その結果、合理的な再生計画を立案することが非常に容易となります。


 次に、②の債権者との協議の段階においては、金融機関である債権者(通常は多数おります)が、提示された再生計画案に対し、適切に質問や意見などを表明できる「場」の設定が重要となります。そのような「場」の設定も、企業単独ではかなり難しいものですが、協議会案件では協議会がそのような「場」を設定してくれます(いわゆる「バンクミーティング」)。また、協議会は、あくまで中立的な立場におりますが、そのような立場から一定の調整を行ってくれます。私的整理では、このような中立的な立場の方の意見が重みを持つことが多く、結果として合意が促進されます。このようなバンクミーティングを経て(場合によっては再生計画案の修正も行い)、全ての金融債権者が再生計画案に同意すれば、再生計画は成立となります。


 以上のように、中小企業再生支援協議会は、中小企業が直面する私的整理のハードルを除去する役割を果たしており、非常に合理的な制度設計になっていると思われます。このような公的機関が日本全国47都道府県に1箇所ずつ設置されているというのは驚きに値します。またこういった公的機関は海外に類例がないようであり、なぜ日本でこのような機関が発達したのかは大変興味深いところです。



※「中小企業再生支援協議会」・・法律上の位置付けを厳密に説明すると、経済産業大臣は、各地の商工会議所などを、再生支援事業を実施するための「支援機関」に認定している。支援機関はその内部に「支援業務部門」を設置しており、実務上、この支援業務部門が上記の業務を実施している。この支援業務部門を一般に「中小企業再生支援協議会」と呼んでいる。


2016年(平成28年)3月15日
さくら共同法律事務所
弁護士 小野沢 庸