さくら共同法律事務所

 ADRという言葉を聞いたことがありますでしょうか。「原発ADR(原子力損害賠償紛争解決センター)」や「金融ADR」,「事業再生ADR」などの言葉を新聞等で目にされた方もいらっしゃるかもしれません。しかし,ADRは,特殊な専門分野でのみ用いられるものではなく,およそ世の中に生起する紛争一般についても用いられる紛争解決手段の1つです。


 ADRというのは,Alternative Dispute Resolutionの略で(ただし,Alternativeではなく,Appropriateの略とする考え方もあります。),日本語では「裁判外紛争解決手続」などと訳されています(「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(平成16年12月1日法律第151号)(以下「ADR法」といいます。)参照)。一般的には裁判所が主催する「訴訟」との比較で,「訴訟手続によらない紛争解決方法を広く指すもの」と説明されます(なお,ADR法第1条では,「裁判外紛争解決手続」の定義として,「訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする紛争の当事者のため,公正な第三者が関与して,その解決を図る手続」と規定しています。)。

 裁判所の手続は,訴訟はもとより調停についても,職権的で厳格・画一的な手続であるため,当事者には,話を聴いてもらえないという不満が残り,また手続が長期化して,手続にかかわること自体による精神的ストレスも抱えるという側面があります。ADRは,裁判所の手続における上記欠点を解消し,当事者の意見を尊重する立場から,柔軟な手続によって,早期に納得のいく解決を目指すべく創設された制度といえます。


 このようなADRの特長として迅速性,柔軟性,非公開性を挙げることができます。


(1)迅速性

 裁判所の手続は,通常1か月に1回の割合で期日を開催し,これが何度も繰り返された後,必要に応じて証人尋問手続などを実施し,最後に判決言渡しや審判の告知となります。そのため,訴訟提起や申立てをしてから裁判所の最終的な判断を得るまでに相当な時間がかかることがよくあります,しかも,この判断に不服のある当事者が上訴をすれば,さらに解決まで時間がかかることとなります。

 これに対して,ADRを用いた場合,上記の手続に比べて,比較的迅速に紛争を解決することが可能です。次の柔軟性ともかかわりますが,当事者のニーズに合わせて期日の調整が可能な場合が多いので,当事者間で紛争の早期解決への気運が高まれば,短期間で一気に解決を図ることが可能です。


(2)柔軟性

 裁判所の手続は,法律に基づく厳格な手続であり,判断を求めたい事項が限られている上,手続の内容も複雑かつ専門的です。そのため,必ずしも当事者の意向に沿った手続の進行がなされるとは限りません。

 これに対して,ADRの場合には,申立内容につき特段の制限はなく,当事者が合意さえすれば,和解内容を柔軟に定めることができます(金銭請求に限らず,謝罪を求めたり,説明を求めたりすることも可能です。)。また,当事者の話を聞く判断者(仲裁人・あっせん人)について,条件や特定の者の就任の希望を述べたりすることもできます。さらに,期日の開催場所や日時(例えば,平日夜間の法律事務所での開催や土曜日・日曜日の開催など),開催頻度を比較的自由に設定できます(1か月に1回の頻度よりも短い頻度で期日を設定することも可能です。)し,証拠の提出をあっせん人限りとして,相手方には提出しないなどの措置を講ずることもできます。


(3)非公開性

 裁判所の手続によって紛争を解決する場合には,公開の法廷において,各種の手続を実施しなければなりません(これは憲法第82条第1項の要請でもあります。)。そのため,事案の内容によっては,当事者以外の第三者の目に触れることとなる裁判所の手続を利用することに躊躇を覚える方もいらっしゃるかもしれません。

 これに対して,ADRの場合は,手続は非公開で行われ,さらにはADRの手続が実施されていること自体も公開されないのが通常です。


 このように裁判所の手続に比べて,柔軟な手続によって,早期に納得のいく解決を目指すべく創設された制度がADRです。もっとも,ADRは,最終的には当事者間での和解を目指すものですので,訴訟のように,相手方に出頭を強制するような仕組みは取られておらず,相手方が手続に応諾しなければそれ以上の手続の進行は望めません。また,当事者間で成立する和解は,あくまで契約であって,判決のような強力な効力を有するものでもありません(もっとも,和解あっせん手続によったとしても,和解の内容がまとまった段階で,当該和解を公正証書化したり,簡易裁判所に即決和解の申立を行ったり,当事者間での仲裁合意により仲裁手続に移行して,和解を成立させ,仲裁決定の申立てを行って,和解と同内容の仲裁決定を受けることで,判決と同一の効力を得ることは可能です。)。


 依頼者からのご相談には,それこそ様々な内容のものがあります。その解決を考えるに当たり,どの点に比重を置くのかにより,ADRは,訴訟や調停などの裁判所の手続と併せて,紛争解決のための有用な一手段となり得ますので,事案がADRに向いていると判断される場合には,その積極的活用に向けて前向きにご検討をいただければと思います。


以上



2016年(平成28年)7月12日日
さくら共同法律事務所
弁護士 室谷和宏