AI(Artificial Intelligence)

ここ数年、AIを活用した事業の発展・効率化についてよく話題になっており、弁護士業務についてもその例外ではありません。AI法務、と一括りに言ってもテーマは広大となり(自動運転の法的責任、AIが作成したものに関する知的財産権の取り扱い、プライバシー規制、様々な法領域での過失・意思等の考え方等等)、私の能力を遥かに超えてしまうので、今回は、自身の業務に身近で、試用する機会のあった翻訳のAI化などについて触れたいと思います。なお、さらに未来にわたった話にご興味があれば、本コラムにおける松村弁護士の寄稿(http://www.sakuralaw.gr.jp/sakura_news/sakura_20160909.htm)をご覧いただければと思います。


翻訳AI

今のところ私が試用してみたサービスは、契約書等の文書データをアップロードして翻訳を依頼(クリック)するという形でした。そうした意味では、使い方だけですとAI翻訳と機械翻訳がどう違うのか実感はないのですが(もちろんその翻訳プログラムはAI技術に依拠しており仕組み自体が従来のいわゆる機械翻訳と異なるとのことです)、内容面については、確かに従来の機械的な翻訳よりも精度が高いと感じました。特に、秘密保持契約のように、巷に実例が多く出回っていて、内容についても汎用的な条項で作られている文書については、思っていた以上に良く出来ていると感じました。他方、多少クセのある文書(そもそも元となる日本語の文書が整理できないという評価もありますが、現実社会の文書では往々にあることです)になると、手直しをする部分がやはり多く出てきます。
実際に翻訳を手掛けない方の中には、翻訳作業は簡単にすぐできると誤解されている場合もあるのですが、文脈を考えたり、適切な用語を思案したり、なかなか時間がかかり、神経も使うものです。特に、法的文書では、ニュアンスが伝わればいいというものではなく、実際の文言に即していないと大きなトラブルにもなりかねません。
翻訳AIを利用すると、数分ないし数十分で初稿が出来上がります。人のレビューが必要といっても、手間が大きく省かれます。また、利用が増えるにつれてAIが発展するために必要となるデータも増え、今後さらに精度が上がっていくと見込まれます。AIの場合、精神的に疲れることなく、迅速に対応できるというところも大きいです。そのため、AIによる翻訳サービスによって助けられる部分はかなり大きくなっていくだろうと感じました。


契約書作成AIなどへの展開

こちらは、今のところ私が試用したことはないのですが、近いうちに利用する機会が出てくるだろうと思います。契約書については、クライアントが実際に使用される目的に合わせて作成するということはもちろん必要なのですが、他方、汎用的な条項が多数含まれることも事実です。また、翻訳に比べると開発のための材料となるデータは少ないかもしれませんが、契約書の場合、特に汎用的な条項については定型化しやすく、素人の想像ではありますがAIの学習効率が良いようにも思われるため、こうした部分についてはデータを照らし合わせて評価するというAIが広まることにそれほど時間はかからないのではと思っています(導入費用にもよりますが)。通常設けられるべき事項について漏れがないか、スクリーンニングするためにAIを利用するというステップが当たり前になっていくのかもしれません。実際、アメリカではAIのレビューシステムと弁護士が、秘密保持契約ではありますが、そのレビューの精度やスピードをテストしたところ、AIがより高いパフォーマンスを残したというニュースもあるそうです。
他方、ある程度曖昧なお題(リクエスト)を与えて、個々の事案に応じてカスタマイズをした契約書を作成するとなると、対象とする契約書の種類にもよりますが、AI対応にはやや時間がかかるのかな、とも思います。そういう意味ではクライアントの要望をヒアリングして、それを法的に構成して、契約書として落とし込んでいく、という部分をAIに切り替えて行くのはもう少し時間がかかるかもしれません。といっても、2-3年経てばだいぶ状況も変わってくると思いますし、また、クライアント側でも、AIによるチェックをしておけばそれで足りる、と割り切ることも十分考えられます。


AIの弁護士業務への導入については色々な意見があります。このように、翻訳や契約書作成のAI化を見ると、大変助けられるという面があり、AIを活用することによって、人はAIでできない部分に集中できる、と言われています。一方で、違った観点から、弁護士の仕事が失われてしまうことへの危機感も唱えられています。
個人的には、定型的なものを含めた従来の経験を、意識的・無意識的に土台として、個々の事案に対応しているため、AIに依拠するようになると、我々はそうした土台をいかに培っていくかという課題もあるようにも思われます。そうした意味では、ロースクールや法律事務所におけるトレーニングや、現役の弁護士がどのような能力を伸ばして成長していくか、課題は様々という状況です。