アカデミックハラスメント

最近、テレビや新聞などで、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントが取り上げられているところを良く目にします。今となってはセクシャルハラスメントやパワーハラスメントが社会的に問題であり、適切に対処しなければならないことはある種常識になりつつあります。
例えば、会社内で役員や従業員がセクシャルハラスメントやパワーハラスメントに当たる行為をしたとすれば、被害者は、その役員や従業員、あるいは会社に対して民事上の損害賠償責任等を追及し、場合によっては訴訟等を提起して司法的な解決を図ることが考えられ、他方で会社としては、そもそもセクシャルハラスメントやパワーハラスメントが起きないように講習を行うなどして事前の対策を講じたり、そのような行為が起きてしまった後には、当該役員や従業員に対して、解任をしたり懲戒処分をするということで事後的な対策をすることなどが考えられます。
これらに対して、アカデミックハラスメントは、ニュースなどで取り上げられることがそれほど多くないと思いますので、アカデミックハラスメントについて触れてみたいと思います。


1.アカデミックハラスメントとは

アカデミックハラスメントについては、法律や役所等の公的な機関で、「これ」という定義はされていません。ただ、例えば、東京大学は、アカデミックハラスメントについての定義を宣言していて、それによれば、「大学の構成員が、教育・研究上の権力を濫用し、他の構成員に対して不適切で不当な言動を行うことにより、その者に、修学・教育・研究ないし職務遂行上の不利益を与え、あるいはその修学・教育・研究ないし職務遂行に差し支えるような精神的・身体的損害を与えることを内容とする人格権侵害」をいうと定義されています。ほかにも、例えば早稲田大学では、「教員等の権威的または優越的地位にある者が、意識的であるか無意識的であるかを問わず、その優位な立場や権限を利用し、または逸脱して、その指導等を受ける者の研究意欲および研究環境を著しく阻害する結果となる、教育上不適切な言動、指導または待遇」などと定義されています。
いずれの定義も、要は学校内で権力を持っている人間が、その権力を使って、学生等の教育などを妨害するような行為を指しているのだと思います。


2.アカデミックハラスメントの具体例

アカデミックハラスメントは様々なものがありますが、例えば、単位をやらない、留年させる、就職させないなどという対応を取られたり、学位や修士、博士論文を書くにあたって、指導をされないで放置されるだとか、論文を発表させてくれない、などといったものが具体例として挙げられます。もちろん、具体例として挙げたものの他にアカデミックハラスメントがないかというと、そんなことはありません。


3.アカデミックハラスメントの解決

アカデミックハラスメントの被害者はどのようにハラスメントを解決すれば良いのでしょうか。例えば大学内で、教授から暴力を受けて、肉体的にも精神的にもダメージを受けた、ということであれば、金銭的な救済を図ることが考えられます。他方で、例えば大学で単位の認定をしない、などといったハラスメントを受けた場合、裁判所は、裁判所の審査の対象ではない、という考え方を採用しています(最判昭52年3月15日等参照)。これは、部分社会の法理という考え方が基礎にあり、大まかにいえば、ある団体の内部的な事項が問題となっているのであれば、それはその団体の中で解決すべきであって、裁判所が介入するものではない、という考え方です。そのため、単位の認定をしない、などといったハラスメントの場合には、司法的な解決を図ることができません(ただし、この点は微妙なところがあり、裁判所の審査が及ぶ類型のハラスメントと、及ばない類型のハラスメントがあります。)。
では、どうすれば良いのか。一つの解決策としては、要は「学校内」の問題なのであれば、「学校内」で解決するということが考えられます。すなわち、近時、多くの大学で、ハラスメントを防止するための組織が用意されていて(例えば東京大学、慶應義塾大学、早稲田大学等有名な大学を調べると大体組織化されています。私の母校の青山学院大学や明治大学でもそのための組織があるようです。)、その組織を利用してアカデミックハラスメントを訴えて、解決を図る、という方法です。
ただ、いくらハラスメントを防止するための組織が作られているとはいえ、大学内での組織である以上、中立的な判断をしてくれるとは限りません。解決がなかなか難しいと予想される場合には、弁護士などの第三者の力を借りて、問題を解決することも検討した方が良いと思います。
他方で、学校側としては、アカデミックハラスメントの訴えがあった場合には、ハラスメントを放置すると、結局のところは学生等からの信用を失うことにつながりかねず、真摯に対応すべきだと思います。


4.終わりに

アカデミックハラスメントは、問題としてはセクシャルハラスメントやパワーハラスメントに比べてややマイナーかもしれませんが、問題の深刻さに相違はありません。困ったときには、第三者の手を借りる、ということも考えるべきです。


以上



2018年(平成30年)8月17日
さくら共同法律事務所
弁護士 小林岳史