フリーランス・トラブル110番について


1.はじめに

フリーランス・トラブル110番という事業についてご存じでしょうか。個人事業主・フリーランスのための無料の相談窓口として、令和2年11月25日に開始した新しい事業です。第二東京弁護士会が厚生労働省から委託を受け、厚生労働省や内閣官房と連携し運営をしています。私も相談員として関与をしておりますので、この場をお借りして、同事業の概要を紹介させていただきます。


2.事業の意義

企業にお勤めの皆様が、解雇や残業代未払い等労働問題に直面した際、まずどこに相談をするべきでしょうか。いきなり弁護士に相談する方法もありますが、管轄の労働局・労基署が総合労働相談コーナーを設置しておりますので、当てのない方はまずこちらに相談をするべきでしょう。あらゆる分野の労働相談を無料かつワンストップで対応してもらえます。

では、個人事業主・フリーランスの方が、契約の打切りや報酬の未払い等の問題に直面した際、どこに相談をするべきでしょうか。実は、個人事業主・フリーランスには労働法制の適用がないため、原則として総合労働相談コーナーで相談を受け入れてもらえません。個人事業主・フリーランスが近年増加している一方、無料の相談機関が存在しないため、法的なトラブルが起きても、泣き寝入りを余儀なくされる事態が問題視されていました。

 そんな中、個人事業主・フリーランスの方が無料で利用でき、ワンストップで相談に対応する機関を設けようという意図のもと、新しく始まった事業がフリーランス・トラブル110番というわけです。


3.事業の特徴

フリーランス・トラブル110番は、原則として、弁護士が相談の対応からあっせん手続まで一貫して関与します。相談員になる弁護士は事前に研修を受講し、個人事業主・フリーランスに関するあらゆる法令・制度の理解を深めているため、問題解決のために詳細なアドバイスを受けることができます。

相談は、メール、電話、WEB会議、対面にて行います。特に和解あっせん手続においては、遠方の相談者と相手方間の和解あっせん手続をWEB上で行うことができるため、所在地を問わず相談を受け、問題を解決することが可能となっています。

相談受付時間は、現状、午前11時30分から午後7時30分(土日祝日を除く)になります。


4.具体的な解決方法について

相談員は、個人事業主・フリーランスの方の相談に応じて、適切な解決方法をアドバイスします。その方法は、法的な解釈を伝え自力交渉を促す場合や、少額訴訟の提起を促す場合など様々です。独占禁止法や下請法上の申告手続や、同法の解釈の相談については、公正取引委員会や中小企業庁などの他の機関の利用を促すこともあります。

フリーランス・トラブル110番を利用した解決方法の中で最も注目すべき点は、事業内に裁判外紛争処理手続としての和解あっせん手続を組み込んだことにあります。第二東京弁護士会が同弁護士会の仲裁センターと連携して和解あっせんを実施しており、十分な実務経験を有する弁護士が、和解あっせん人として、当事者間の紛争解決を試みます。和解あっせん手続の利用は無料であり、また、WEB会議を利用し当事者が遠方に住んでいても手続の利用が可能であるため、多くの個人事業主・フリーランスの方が、同制度を利用し、和解を成立させています。


5.相談の具体例

相談者の業種としては、運送関係やシステム関係、デザイン関係、建築関係など様々です。

特に運送関係については、新型コロナウイルスの影響でネット販売の需要が高まり、商品を配送するための運送人員が増大した結果、フリーランス・トラブル110番への相談件数も増加している傾向にあります。相談の典型例としては、「報酬が著しく低い。」「車両のリース料金が報酬から控除された。」「配送ミスの罰金を会社から請求された。」「報酬から様々な費用が控除されたが、何が控除されたか不明である。」「条件が過酷すぎて体を壊してしまう。」などがあげられます。

「報酬が著しく低い。」という相談を配送員から受けた際の解決例は以下のとおりです。まず、相談員が当該配送員から稼働状況を聞き取り、それを基に1日の時間給を計算します。計算の結果、雇用関係であれば最低賃金を大きく下回っていることが判明したため、その旨当該配送員に伝え、同結果を相手方に指摘し、報酬の増額を交渉してみてはどうかとアドバイスをしました。結果として、当該配送員は相手方との交渉の末、報酬を増額させることができました。


6.終わりに

フリーランス・トラブル110番の相談件数は、令和4年度は6800件を超え、今年度も令和4年度を上回るペースで相談が来ています。個人事業主・フリーランスの方の無料相談窓口としては十分に機能しているといえます。

加えて、つい最近のことではありますが、令和5年5月12日に、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス新法ともいう。)が公布されました。この法律により、特定の要件に当てはまる個人事業主・フリーランスは、下請法と同様の規制や、労働者類似の保護を受けることになります。個人事業主・フリーランスを対象とする法律が初めて制定されたのです。

今後はフリーランス新法の施行(遅くとも令和6年11月頃までに施行予定)を見据えて、引き続き相談員としての職務を全うするとともに、同法の研鑽を重ねていきます。また、企業の皆様におかれましても、個人事業主・フリーランスとの業務委託契約に関するトラブルの増加が予想されますので、問題が生じた際にはぜひご相談いただければと存じます。



以上



2023年(令和5年)8月3日
さくら共同法律事務所
弁護士 横澤 英一