所有者不明土地・建物管理制度について


1.はじめに

所有者が不明の土地・建物や、管理不全に陥っている土地・建物の円滑な管理と利用の促進を目的として、所有不明土地・建物管理制度が令和5年4月1日に施行されました(改正民法第264条の2ないし第264条の8)。

以下では、まず旧法下の問題点をご説明し、新設された所有者不明土地・建物管理制度の概要をご紹介します。


2.旧法下の問題点

旧法下では、土地や建物の所有者が行方不明の場合のための管理制度として不在者財産管理制度(民法第25条ないし29条)や、所有者が死亡して相続人の存在が明らかでない場合に相続財産管理制度(民法第951条以下)を利用することが可能でした。

しかし、これらの制度は以下の問題点があります。

・「不在者」や「被相続人」の財産を管理するための制度であり、あくまで人単位での財産管理しか行うことができず、特定の土地・建物などの財産の一つを管理対象として絞ることができませんでした。そのため、特定の土地・建物の管理を行う目的であったとしても、所有者の財産全般について管理することを前提とした事務作業や費用負担を強いられるという問題がありました。

・そもそも、所有者が誰なのか特定できない不動産については、不在者財産管理制度を利用することができませんでした。


3.所有者不明土地・建物管理制度の概要

今回新設された所有者不明土地・建物管理制度では、調査を尽くしても所有者やその所在を特定することができない管理不全の土地・建物について、利害関係人が地方裁判所に申し立てることによって、その土地・建物の管理人を選任することが可能になったため、旧法下とは異なり、特定の土地・建物のみを絞って管理の対象とすることができるようになり、所有者を特定できない土地・建物についても財産管理制度の利用が可能になりました。


4.管理人による財産管理について

管理人は、所有者や裁判所の許可を得ることなく、対象不動産の現状維持を目的とした修繕等の保存行為及び、対象不動産の性質を変えない範囲での賃貸等の利用行為や、価値を高める改良行為を行うことができます。また、これらの範囲を超える行為(対象不動産の処分行為など)についても、裁判所の許可を得れば行うことが可能です。

更に、対象とされた所有者不明土地・建物やその共有持分権、対象不動産に置かれた所有者等の動産、対象不動産の管理処分によって管理人が得た財産(賃料収入、売却代金など)の管理処分権も管理人に専属します。


5.申立てを行うことができる場合

新設された所有者不明土地・建物管理制度の対象となる不動産は、調査を尽くしても所有者やその所在を特定することができない、管理不全の土地・建物です。


また、管理人の選任を裁判所に申し立てることができるのは利害関係を有する者に限られており、具体的には、土地の管理不全により不利益を被るおそれのある隣接地所有者、一部の共有者が不明の場合における他の共有者、土地を時効取得したと主張する者など、所有者不明土地・建物の管理に利害関係を有する者が該当します。

さらに、立法過程では、土地を取得してより適切な管理をしようとする公共事業の実施者や民間の買受希望者も、場合によっては利害関係に当たり得るとの議論が行われています。


6.終わりに

今回は、令和5年4月1日に施行された新しい所有不明土地・建物管理制度をご紹介しました。施行されたばかりであり、裁判所での運用や管理人の具体的な権限(例えば、建物の取り壊しも可能なのか)などは実務の蓄積を待つ必要がありますが、不動産の管理不全問題の解決に資する制度としてご紹介します。



以上



2023年(令和5年)9月25日
さくら共同法律事務所
弁護士 林田 悠希