尋問について


1.はじめに

「さくら便り、次回投稿分の執筆をお願いします。テーマや分量は特に指定はないとのことです」。先月担当の林田先生からこんなメールがあったのは9月26日だが、10月も終わりが近付いてきてようやくこれを書き始めた。普段裁判所に提出するテーマの決まった文章ばかり書いているから、自由に書いていいといわれると何を書くか悩んでしまい、なかなか手が付けられなかったというのは言い訳だろうか。文字数を数えてみると9月担当の林田先生が約1500字だったので、なんとか1500字を目指そうと思う。


2.テーマ

さて何を書くか。当事務所では定期的に事務所研修会を開き、若手の弁護士が最近の法改正などについて発表を行っており、私は以前の事務所研修会で相続制度の見直しについて発表したので、その内容を流用しようかと思ったのだが、同じ内容をまとめ直すのもあまり面白くない。
そんな中で、ふと思い出したのが、先日大学卒業以来で久しぶりに会った友人との会話である。仕事の話題になり、今は四ツ谷で弁護士をしていると話したところ、「じゃあ、法廷で異議あり!とか言ったりするんだ」。
その友人のように、某有名ゲームの影響か、弁護士というと、法廷で相手を論破しているイメージを持つ人が多いようだ。しかし、最近は裁判を対面ではなく、ウェブ会議の形式で行うことがむしろ主流になっており、裁判所に行って法廷でやり取りをするのは尋問(刑事ドラマなどで、事件の関係者が法廷で質問を受けているのを見たことがあれば、それをイメージしてもらえれば分かりやすい)のタイミングぐらいになりつつある。今回は、民事事件の尋問について書いてみようと思う(ちなみに、尋問では、相手側の尋問が適切でないときに異議を出せるが、淡々と「異議があります」と述べる人が多く、「異議あり!」と勢いよく立ち上がる人はあまり見かけない)。


3.尋問について

尋問は、原告と被告が主張や反論を尽くして、事件の争点が固まった段階で行われ、原告と被告は、それぞれ争点について話を聞くべき人を尋問の対象者として裁判所に申請する。原告や被告自身の尋問であれば本人尋問、それ以外の第三者であれば証人尋問ということになる。
尋問は、まずその証人を申請した側が行い(「主尋問」という)、次に相手の側が質問し(反対尋問)、最後に必要があれば裁判官が質問することもある(補充尋問)。尋問の前に、尋問対象者の陳述書(言い分をまとめて、本人が署名押印した文書)を裁判所に提出し、裁判所に自分の側のストーリーを理解してもらった上で、尋問に進むという流れである。主尋問は、自分の側が申請した証人に、陳述書に沿って質問していくので、相手の証人に質問する(こちらの有利に回答してくれない)反対尋問に比べれば、大変ではないことが多い。


4.京都での尋問

私が弁護士になって初めて尋問をしたのは京都の裁判所だった(東京で弁護士をしているのに、初めての尋問を京都でやることになるとは思わなかった)。先輩弁護士と共同で担当していた事件で、私は(比較的楽な)主尋問を担当し、実力が要求される反対尋問は先輩弁護士が担当した。先輩弁護士の反対尋問では、証人の話と食い違う証拠を示していくことで、相手がしどろもどろになっていく様子を見させてもらい、大変勉強になった。
尋問が無事に終わり、京都駅まで戻って東京に戻る新幹線に乗ろうとしたところで、私だけが改札に引っかかった。スマートフォンで買ったはずのチケットが上手く買えていなかったのだ。新幹線の時間も迫っていたため、先輩弁護士の背中を見送ることになった(結局次の新幹線のチケットを券売機で購入した)。最後に京都駅に置いて行かれるというオチまでついて、色々と思い出深い尋問だった。


5.終わりに

ここまでで1545字、なんとか1500字を超えることができた。次回の執筆が回ってくるのがいつになるか分からないが、次の機会には、タイムリーに題材にできるような法律の改正があり、これを読んでいただいている方に良い情報提供ができること(そして私もテーマに悩まないこと)を願うばかりである。



2023年(令和5年)10月30日
さくら共同法律事務所
弁護士 千原 歌穂子