企業が知っておくべきステマ(ステルスマーケティング)規制の概要


1.はじめに

令和5年10月1日から、ステルスマーケティングが景品表示法(正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法」。以下、「景表法」とします。)違反とされるようになりました。
これは、消費者庁「ステルスマーケティングに関する検討会」で議論された結果、ステマ規制(「内閣府告示第19号」)が創設されたことによります。景表法5条3号では、同条が禁止する「不当な表示」の類型を内閣総理大臣が指定する旨定められているところ、かかる告示により、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」が不当な表示として指定された形です。
「ステルスマーケティング」とは、簡単に言えば、広告であるにもかかわらず、広告であることを隠す手法です。消費者がより良い商品・サービスを自主的かつ合理的に選べる環境を守るというのが規制の趣旨になります(消費者庁HP:令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。 | 消費者庁 (caa.go.jp)参照)。


2.企業の視点で考えるステマ規制の影響と留意点

近年、SNSの普及に比例するように、いわゆるインフルエンサーと呼ばれる方々の影響力が非常に強くなっており、インフルエンサーマーケティングの有用性は高まっています。有名な例では、YouTuberのヒカルさんが自身のYouTubeチャンネルでファミレスの「ジョイフル」の宣伝を行ったところ、売上が大幅に増加しただけでなく、ジョイフルの時価総額自体も大幅に向上させる経済効果を生み出した例もあるようです(参考:【飲食店を救いたい】コロナで経営難のジョイフルから直接連絡がきたので社長に会いに大分県まで飛びました… - YouTube【ヒカル砲炸裂で経済効果18億増】コラボハンバーグが楽天Amazon1位獲得してジョイフル株価ストップ高に… - YouTube)。

商品やサービスの質には自信があるものの、認知度が不足しているというような企業にこそ、1つの動画や投稿で「バズらせる」ことに成功すれば飛躍的に認知度を向上させることができるインフルエンサーマーケティングは効果的とも考えられます。
しかしながら、商品やサービスの販売を行う事業者が、インフルエンサーに対して報酬を支払って宣伝を依頼し、特定の商品やサービスの宣伝を含む投稿がなされた場合に、そのような有料プロモーションを含むもの(いわゆる企業案件)であることを明示せずに投稿が行われてしまうと、ステマに該当し、景表法違反となり得ます。かかる規制の趣旨は、宣伝であることを明示せずに投稿がなされた場合、そのインフルエンサーのことが好きで投稿を見た一般消費者が、「自分の憧れているこの人がプライベートでも好んで使っている商品ならきっと良い商品だから自分も買おう。」等と思ってしまい、「この商品を提供している企業から報酬を貰って宣伝を依頼されているのだ」という正しい認識ができなくなることを防ぐ点にあると考えられます。
実際、YouTubeにおいては、ステマ規制上求められる表示を促進するため、「プロモーションを含みます」というメッセージを画面の端に表示することで、視聴者に企業案件動画であることを明示する機能が実装されています。具体的には、下記画像の左上の黄色く囲った部分に表示されている「プロモーションを含みます」という表示が、全視聴者の画面上に表示されることになります。動画内で案件動画である旨を告知するのみでは必ずしも全ての視聴者に周知徹底が図れない可能性もあることから、かかる機能を用いることで、景表法との関係でリスクを低減できます。

引用:中町兄妹YouTube

(引用:中町兄妹「兄妹で最近の夢話したら叶う訳なくて気まずいwwwww - YouTube」)
※引用元チャンネルの「中町兄妹」は、各動画の最後の挨拶等において無断転載等を広く推奨しているチャンネルのため、具体例として引用をさせていただきました。


上記はYouTubeの例ですが、その他のSNS等においても同趣旨の表示が求められることは言うまでもありません。
ここで、企業側にとって注意すべき点は、規制の対象となるのは実際にステマを行った者(ここでいうインフルエンサー)ではなく、依頼を行った企業である点です。違反した場合は、再発防止を求める措置命令が出され、広告を依頼した事業者名が公表される可能性もあります。また、措置命令に従わない場合は、2年以下の懲役または300万円以下の罰金などが科されます。
このように、ステマ規制によってリスクを直接負うことになるのは、現行の景表法の建付け上、専ら案件を依頼した事業者側になりますので、インフルエンサーマーケティングを行う際には、インフルエンサー側との間で締結する契約書の中で、しっかりとかかるリスクをヘッジする内容を盛り込んでおく必要があるでしょう。


3.おわりに

ここではごく簡単に、ステマ規制について、概要のみ書くこととし、紙幅との関係で詳細は割愛しております。 なお、個別の表現がステマに該当するかどうかに関しては、消費者庁の基準等に照らしながら個別具体的に判断されていくことになります(消費者庁HP;別紙2 「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準 (caa.go.jp)等参照)。



2023年(令和5年)11月30日
さくら共同法律事務所
弁護士 廣田景祐