インターネットを通じた営業妨害行為・誹謗中傷行為対応の最前線における「但書」を巡る攻防

※以下の文章はiPhoneの音声入力機能を利用して作成した上で、キーボードを使って見出しを付け、人の目で校閲をして完成させたものです。


1.はじめに

インターネットを通じた営業妨害や誹謗中傷は、近年、極めて顕著な増加傾向にあり、裁判所も担当部の裁判官を増員するなど適切な対応を迫られているという実態があります。

また、プラットフォーマー(SNS・ウェブサイトを運営する米国法人等)も、営業妨害行為・誹謗中傷行為の媒介としての役割を果たさざるを得ない立場にあるため、被害者となる企業や個人からの権利行使に対して的確な対応をすることが迫られており、投稿記事の削除や発信者情報の開示に関する裁判実務においては被害者である法人や個人とプラットフォーマーとの間での様々な攻防が繰り広げられています。


2.プラットフォーマーは自身が保有していないIPアドレス情報について開示を強制され得るかという問題

(1) 問題の所在

そして、そのような攻防の中で裁判実務上難しい問題がいくつも出てきています。その1つとして、”プラットフォーマーが権利侵害を構成する投稿に係るIPアドレスの情報を保有しているか否か分からない状態で、裁判所がプラットフォーマーに対してIPアドレスの開示を命じることができるのか”という問題があります。

すなわち、被害者である企業や個人が裁判所に対して、問題の投稿に係るIPアドレスの開示を求める裁判手続を申し立てた場合、裁判所は、当該投稿がプロバイダ責任制限法に基づき開示が認められる対象かどうかを検討し、同法の要件を満たすと判断した場合には、相手方であるプラットフォーマーに対してIPアドレスの開示をするよう命令を出すことになります。そして、被害者である企業や個人は、そのような裁判所の決定に基づき、プラットフォーマーに対して、IPアドレスの開示を求めるとともに、開示をしない場合には、1日につき一定額の支払いをせよとの申立て(間接強制の申立て)をすることができます。

しかしながら、大量のインターネット上の権利侵害が行われている近似の状況では、プラットフォーマーのマンパワー不足により対象のIPアドレスを自社が保有しているかどうかを確認するのに長い期間を要します。そして、自社がIPアドレスを保有しているかどうか分からない段階で、それを開示せよとの裁判所の命令が出されてしまうと上記の間接強制により(保有していないため)開示し得ないIPアドレスを開示するまで、1日あたり何万円との間接強制金を課せられ続けるという事態になり得ます。

(2) "但書"付きの開示決定

そこで、裁判所が開示の決定を出すにあたっては、「発信者情報を開示せよ、但し、プラットフォーマーが保有している情報に限る」という決定を出すという運用がされ始めました。しかしながら、このような但書付きの決定では、法律の解釈上、間接強制ができないのではないかとの議論がされており、実際に東京地方裁判所民事第9部(東京地方裁判所においてインターネット関係の事件を多く取り扱う部署)では、間接強制はできないという見解がとられているようです。

そして、このような但書付きの決定が出ると、プラットフォーマーとしては、決定後にIPアドレスの保有の有無を確認して、保有していなければ開示しなくてよく、保有が確認できればその情報を開示すればよいということになり、特段困ることはありません。しかしながら、被害者である企業や個人としては、但書があると間接強制ができない、すなわち、裁判所の決定に実質的な強制力がないため、裁判所の決定が出た後、プラットフォーマーがいつまで経っても開示しないとしても、開示を強制できないということになります。そして、そのまま期間が経過すれば、IPアドレスの情報を取得することができず、発信者の特定に必要な情報が時間経過によって消失してしまうということになってしまいます。)。

他方で、但書のない決定=「(プラットフォーマーがIPアドレスを保有しているかどうかにかかわらず)開示せよ」との決定が出されると、被害者である企業や個人は、プラットフォーマーに対して「IPアドレスを開示するまで1日当たり一定額を支払え」との間接強制をすることができることになります。すなわち、プラットフォーマーに対してIPアドレスの開示を実質的に強制することができ、仮にプラットフォーマーがIPアドレスを保有していなくても間接強制金を取得できるということになります。他方で、プラットフォーマーは、上記のとおり、間接強制により(保有していないため)開示し得ないIPアドレスを開示するまで、1日あたり何万円との間接強制金を課せられ続けるという事態になり得ます。

このような、いわば“あちらを立てればこちらが立たず”な状況が昨今の発信者情報開示の裁判実務の実態です。

(3) "但書"付き開示決定の提案に対する対応策

裁判官又はプラットフォーマーからの提案に応じて但書をつけてしまうと、裁判手続を経て開始決定を得たにもかかわらず、プラットフォーマーにその開示を強制することができず、その結果、裁判所の決定は出たものの、いつまで経っても開示がされず、発信者特定のための情報が(時間経過によって)消失してしまう、という非常に不合理な状況に追い込まれてしまいます。

そこで、裁判手続において、担当裁判官やプラットフォーマーから但書をつけることを提案された場合、被害者である企業や個人の側としては、「但書付きの決定では間接強制ができないとの法律解釈があり得るところであり、現に発信者情報開示の事件を主に取り扱う東京地裁民事第9部ではそのように解釈されていると聞いている、被害者としては間接強制できないリスクを負う以上、但書付きの決定は到底受け容れることはできない。」として、頑として譲らずに交渉することが重要になります。

ケースによりますが、被害者である企業や個人側が「但書をつけることは到底受け容れられない。」と強く交渉すると、裁判官やプラットフォーマーから、「開示決定が出た後にプラットフォーマーが当該IPアドレスを保有していないことが後から判明したときは、間接強制をしない、という上申書を裁判所に提出するのであれば、但書のない決定でよい」との提案がされることがあります。このような上申書を提出したとしても、法的な拘束力はなく、被害者側として特段困ることはないと考えられないため、そのような提案は受け容れてよいと考えられます。なお、私は自分からこのような上申書による解決の提案をすることもあります。

以上の点については、今後、法律の解釈等実務上の解決策の積み重ねが必要となる点ではありますが、被害者となる企業や個人の立場としては、但書をつけることだけは徹底的に争うという姿勢は維持する必要があると考えられます。


3.おわりに

このほかにもインターネットを通じた営業妨害や誹謗中傷行為に関する法律問題は山積していますが、いずれも新しい問題であるため、その時その時の社会的状況などを踏まえて工夫を重ねていくことが法律家に求められていることは間違いありません。


※iPhoneの音声入力機能を使った結果、上記文章作成の所要時間はベースとなる文章作成に15分程度、見出し作成・校閲作業に15分程度でした。漢字変換等も特段問題はなく、今後も有効に活用したいと思います。



2023(令和5年)年12月28日
さくら共同法律事務所
弁護士 野崎智裕