NHK土曜ドラマ「フェイクニュース」での幻の新聞記事


平成30年10月20日(前編)と27日(後編)にNHK総合で放送された土曜ドラマ「フェイクニュース」(北川景子さん主演)の法律考証を担当しました。
私は、これまで30作品ほどの映画・ドラマの法律監修を担当してきましたが、本作は、最も深く関与した作品の一つです。企画の段階からいろいろとアイディアも出させて頂きました。それゆえに、私の専門分野に関して、かなり「先進的な」ネタが描かれることになりました。


本作は、ネット記事の信頼性(メディアリテラシー)、ネット炎上、セクハラ、パワハラ、食品への異物混入、プライベートブランド、選挙の実態、外国人差別(外国人へのヘイト表現)、外国人労働者問題、外国人政策をめぐる社会の分断など多くの時事ネタが盛り込まれ、その全てが怒濤の展開で破綻なく全て綺麗に回収されるという、極めて完成度の高い第一級の社会派エンターテインメント作品に仕上がっていますが、特に後編は、「技能実習制度をめぐる利権構造の闇」がメインテーマの一つとなっています。
政治家と結託して、技能実習生受入事業に関して違法な名義借り(無許可実習監理)を行い、技能実習生の賃金から不正な利益を中抜きしていた派遣会社の役員と政治家秘書が、技能実習法違反で逮捕されるという結末でした。その逮捕を報じる新聞記事が画面に大きく映し出されていました。この小道具の作成にも、法律考証者の私が深く関与しています。
技能実習制度はかなり複雑なので、もしかしたら本作を一度観ただけでは疑問点が残ったかもしれませんが、画面には映されなかった、下記の幻の「識者コメント記事」をご参照頂ければ、本作の設定をより深く理解して楽しんで頂けると思います。NHKドラマ班は、何事にも決して妥協しない全力投球の本気姿勢なので、ここまで徹底して作り込んでいるのです。


<外国人技能実習制度に詳しい山脇康嗣弁護士の話>
「技能実習制度は途上国への技能移転による国際貢献を目的とする。そのため、技能実習生の受け入れ団体(監理団体)は事業協同組合など非営利の組織にしか認められていない。しかし、受け入れ団体は監理費という多額の収入を安定的かつ継続的に得られるため、技能実習事業に参入したい営利企業も多い。本件はそうした状況下で発覚した事例であり、このような違法な名義貸しは全国的に蔓延している。受け入れ団体による監理が適切に行われないことによって、技能実習生の搾取や人権侵害を引き起こす。技能実習制度の受け入れ団体については、知事などによる中小企業等協同組合法に基づく認可と、外国人技能実習機構による技能実習法に基づく許可のダブルチェックとなっている。しかし、今回は違法に名義を貸した組合に外国人技能実習機構が監理団体としての許可を与え、ずさんな監理の実態が見過ごされていた。外国人技能実習機構による審査や取り締まりが形骸化している。制度の適正化のため、人員を増やすなどして、徹底した審査が求められる。」


実際の日本社会においては、これまで技能実習法違反での逮捕事例は発生していません。技能実習制度の関係者の皆さまにはくれぐれも遵法を徹底して頂き、ドラマ「フェイクニュース」で描かれたような不正によって逮捕者が出ないことを切に願っています。


以上



2018年(平成30年)11月13日
さくら共同法律事務所
パートナー弁護士 山脇康嗣