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福島原子力発電所の事故をめぐっては、未だ収束の目処が立っておらず、事故の影響を受ける人や会社の範囲が拡大し、また損害の範囲も拡大しています。そのため、損害賠償請求ができる主体の範囲や、損害賠償請求の対象となる損害の範囲などの法律問題も深刻さを増し、こうした問題に関するお問い合わせが増加しております。


このような現状に鑑み、当事務所では、ホームページ上で、原子力損害賠償制度に関する情報をお伝えします。本ホームページ上の情報については、政府における検討や法整備等の状況の変化に対応して、内容を改訂して参ります。


※各項目をクリックすると詳細に飛びます。

原賠法の基礎知識
損害賠償と政府の関与
原子力損害賠償紛争審査会
原子力損害
営業損害
財物損害
風評被害
間接被害
その他の具体例
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1 原賠法の基礎知識

Q 原子力損害賠償法(原賠法)とはどのような法律ですか。

A 原子力発電、原子燃料製造、再処理など原子力施設の運転中に発生した事故により原子力損害を受けた被害者を救済するため、1961年に定められた法律です。


Q 原賠法で損害賠償を請求できる損害とは、どのようなものですか。

A 原賠法では、「原子力損害」の賠償を求められることになっています。原子力損害とは、①「原子核分裂の過程の作用により生じた損害」②「核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物の放射線の作用により生じた損害」③「核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物の毒性的作用により生じた損害」のいずれかにあたるものです(原賠法2条2項本文)。


Q 原賠法で責任を負うのは誰ですか。

A 原子力事業者です(原賠法3条1項)。この度の東日本大震災での福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所の事故(以下「本件事故」といいます。)については、東京電力株式会社(以下「東京電力」といいます。)ということになります。


Q 原子力事業者の責任について教えてください。

A 原賠法は、原則として、原子力事業者の損害賠償義務を、無過失責任であり、無限責任であるとしています(原賠法3条1項)。過失の有無に拘わらず、全損害を賠償する義務があるということになります。


Q この度の東日本大震災は天災であるとして、東京電力が責任を免れることはできるのでしょうか。

A 原子力事業者の責任については、「損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるとき」には免責されることになっています(原賠法3条1項)。「異常に巨大な天災地変」とは、昭和36年の法案提出時の国会審議において、「人類の予想していないような大きなもの」であり、「全く想像を絶するような事態」であるなどと説明されています。政府は、本件事故に係る原子力損害について、同法3条1項但書は適用しないことを前提に対応を進めています(平成23年6月7日内閣総理大臣答弁)。


Q 東京電力以外に、国、マスコミ、原子力機器メーカーなどにも請求をすることは考えられますか。

A 原賠法では、原子力事業者以外の者は一切、被害者に賠償する必要がないことになっています(原賠法4条1項)。これは、原子力損害の発生につき原子力事業者以外の者が原因を与えている場合であっても、特にその者が一切責任を負わない旨を明白にしたものとされています。したがって、原賠法で原子力事業者が責任を負う原子力損害については、他の第三者に、連帯責任などを追及することはできません。なお、製造物責任法の規定は明文で適用が除外されていますので(原賠法4条3項)、その意味でも、原子力機器メーカーには責任を問うことはできません。


Q 政府の対応の遅れ、マスコミの報道の不正確性によって、損害が拡大しています。そのような場合であっても、国やマスコミには一切請求できないのでしょうか。

A ご指摘の「損害」が、本件事故と相当因果関係のある損害、すなわち原賠法でいう「原子力損害」にあたることになれば、原子力事業者だけに請求するということになります。あたらない場合には、別途の手段の検討の余地がありますが、その判断は諸事情に照らして考える必要があります。詳しくはご相談ください。


2 損害賠償と政府の関与

Q 東京電力の資力には余裕があるのでしょうか。

A 賠償責任の履行を迅速かつ確実にするため、原子力事業者は国と「原子力損害賠償補償契約」を結んでおり、商用規模の発電用原子炉の場合は、通常1200億円(原賠法7条1項、施行令2条の表)の賠償措置額まで、補償金が支払われることになります。そして、賠償措置額を超える原子力損害が発生した場合には、国が原子力事業者に必要な援助を行うことを可能とすることにより、被害者救済に遺漏がないよう措置することになります。


Q 本件事故に対して、政府はどのような体制を構築しているのでしょうか。

A 政府には、

①災害対策基本法に基づく緊急災害対策本部

②原子力災害対策特別措置法に基づく原子力災害対策本部

③東日本大震災復興基本法に基づく復興対策本部

の3対策本部があり、いずれも本部長は内閣総理大臣です(災害対策基本法28条の3、原子力災害対策特別措置法17条1項、東日本大震災復興基本法13条1項)。


Q 政府が損害賠償を援助する仕組みについて教えてください。

A 被害者への迅速かつ適切な損害賠償や電力の安定供給等を目的として、平成23年8月3日に原子力損害賠償支援機構法が成立し、8月10日に公布・施行されました。
この法律により、原子力損害賠償支援機構が、賠償措置額を超える原子力損害が発生した場合に行う援助の方法が定められました。
その仕組みですが、原子力損害賠償支援機構は、原子力事業者が納付する負担金や政府保証債の発行等により資金調達し、通常の資金援助(運営委員会の議決に基づく資金援助)や特別資金援助(主務大臣の認定する特別事業計画に基づく資金援助)の枠組みにより原子力事業者に必要な資金を交付し支援するというものです。


Q 屋内退避や避難の基準はどのように定められているのですか。

A 原子力災害対策特別措置法15条3項に基づき、内閣総理大臣が屋内退避や避難を指示します。その指示に際しては、原子力安全委員会が策定した「屋内退避及び避難等に関する指標」が目安になります。
(参考)
http://www.nsc.go.jp/shinsashishin/pdf/history/59-15.pdf


屋内退避及び避難等に関する指標
予測線量(単位:mSv[ミリシーベルト]) 防護対策の内容
外部被ばくによる実効線量 内部被ばくによる等価線量
・放射性ヨウ素による小児甲状腺の等価線量
・ウランによる骨表面又は肺の等価線量
・プルトニウムによる骨表面又は肺の等価線量
 
10〜50 100〜500 住民は、自宅などの屋内へ退避すること。その際、窓などを閉め気密性に配慮すること。ただし、施設から直接放出される中性子線又はガンマ線の放出に対しては、指示があればコンクリート建家に退避するか、又は避難すること。
50以上 500以上 住民は、指示に従いコンクリート建家の屋内に退避するか、又は避難すること。

Q 農作物の出荷制限の法的根拠はどこにあるのですか。

A 原子力災害対策特別措置法20条3項により、原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)が出荷制限の指示をします。また、厚生労働省からも、「放射能汚染された食料品の取扱いについて」という通知がなされ、別表記載の指標値を上回る食品を、食料衛生法6条2号に定める出荷が禁じられる食品に指定しています。
   これ以外にも、地方公共団体が自粛要請等を行う場合もあります。


Q 東京電力に賠償請求したい場合は、どのような手順を採ればよいのでしょうか。

A ①まず、東京電力所定の書式で請求することができます。その際、東京電力では下記の指針を参考に損害額を算定しています。その判断に納得できない場合は、②③の手続を選択することになります。

②後述する原子力損害賠償紛争審査会に和解の仲介を申し出ることができます。ただし、原子力損害賠償紛争審査会は、あくまでも和解の仲介機関であって、認定の内容を強制することはできません。

③裁判所に訴えることもできます。


Q 「損害賠償」ではなく、「補償」という言葉がよく使われていますが、違いがあるのでしょうか。

A 原賠法で認められているのは損害賠償ですが、東京電力では補償という名目で支払を行っています。東京電力では原賠法に基づく損害賠償義務を負うか否かの判断を留保した立場で上記の名目を用いているものと思われますが、損害を埋め合わせるものという趣旨で、基本的には同一のものと考えて構いません。


3 原子力損害賠償紛争審査会  

Q 原子力損害賠償紛争審査会とは何ですか。

A 原賠法18条1項により、政令により文部科学省に設置することができる機関です。その事務の内容については、原賠法18条2項により、以下の3つとされています。

①原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行うこと。

②原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めること。

③前2号に掲げる事務を行うため必要な原子力損害の調査及び評価を行うこと。


Q 原子力損害賠償紛争審査会による指針とは何ですか。

A 原賠法18条2項の規定により定められる一般的指針で、順次公開されているものです。原子力事業者による仮払いや、原子力損害賠償紛争審査会による和解の仲介などの目安として定められます。第一次指針(平成23年4月28日)、第二次指針(平成23年5月31日)、第二次指針追補(平成23年6月20日)、中間指針(平成23年8月5日)が出されていますが、中間指針がそれまでの指針を統括したものになっているので、以下においては中間指針に基づいてご説明します。


Q 原子力損害賠償紛争審査会による和解の仲介というのは、どのような手続ですか。

A 原子力損害賠償紛争審査会の中に、原子力損害賠償紛争解決センター(以下「紛争解決センター」といいます。)が設置され、平成23年9月1日から、申立ての受付を始めました。紛争解決センターは、文部科学省の他、法務省、裁判所、日本弁護士連合会などから選ばれた仲介委員が、申立人と相手方の双方から事情を聴き取って損害の調査・検討を行い、双方の意見を調整しながら、和解案を提示するなどして、当事者の合意(和解契約の成立)を目指す機関です。
詳細は、下記のホームページをご覧ください。
http://www.mext.go.jp/a_menu/anzenkakuho/baisho/1310412.htm


4 原子力損害

Q 原子力損害か否かを判断する際の基本的な考え方はどのようなものでしょうか。

A 民法で定める不法行為に基づく損害賠償請求権と同じように考えてよいとされています。本件事故と相当因果関係のある損害、すなわち「社会通念上当該事故から当該損害が生じるのが合理的かつ相当であると判断される範囲のもの」であれば、原子力損害に含まれるというものです。


Q 具体的に中間指針に記されている原子力損害にはどのようなものがありますか。

A 以下の7項目が挙げられ、さらに被害者への各種給付金等と損害賠償金との調整や、地方公共団体等の財産的損害等についても記されています。

① 政府による避難等の指示に係る損害
 (検査費用(人)、避難費用、一時立入費用、帰宅費用、生命・身体的損害、精神的損害、営業損害、就労不能等に伴う損害、財産価値の喪失又は減少等)

② 政府による航行危険区域等及び飛行禁止区域の設定に係る損害
 (営業損害、就労不能等に伴う損害)

③ 政府等による出荷制限指示等に係る損害
 (営業損害、就労不能等に伴う損害、検査費用(物))

④ その他の政府指示等に係る損害
  (営業損害、就労不能等に伴う損害、検査費用(物))

⑤ 風評被害

⑥ 間接被害

⑦ 放射線被曝による損害


Q 政府による避難等の指示がある区域を整理してください。

A 以下の6つの地域で、これらを「対象区域」と呼んでいます。

① 避難区域
 政府が原子力災害対策特別措置法に基づいて各地方公共団体の長に対して住民の避難を指示した区域(福島第一原発から半径20km圏内、 福島第二原発から半径8km圏内

② 屋内退避区域
 平成23年4月22日解除されました。

③ 計画的避難区域
 福島第一原発から半径20km圏外で、政府が原子力災害対策特別措置法に基づいて各地方公共団体の長に対して住民の屋内退避を指示した区域。

④ 緊急時避難準備区域
 福島第一原発から半径20km圏外で、政府が原子力災害対策特別措置法に基づいて各地方公共団体の長に対して緊急時の避難又は屋内退避が可能な準備を指示した区域。

⑤ 特定避難勧奨地点
政府が、住居単位で設定し、その住民に対して注意喚起、自主避難の支援・促進を行う地点。

⑥ 地方公共団体が住民に一時避難を要請した区域
南相馬市が、独自の判断に基づき、住民に対して一時避難を要請した区域。


Q 避難費用等の支給対象となる「避難等対象者」というのはどういう用語でしょうか。

A 対象区域から避難し、対象区域の外で滞在することになり、あるいは対象区域内で屋内退避をすることになった方のことを指します。


5 営業損害

Q 「営業損害」について、どのような基準が立てられていますか。

A 以下の基準が立てられています。

「従来、対象区域内で事業の全部又は一部を営んでいた者又は現に営んでいる者において、避難指示等に伴い、営業が不能になる又は取引が減少する等、その事業に支障が生じたため、現実に減収があった場合には、その減収分が損害と認められる。上記減収分は、原則として、本件事故がなければ得られたであろう収益と実際に得られた収益との差額から、本件事故がなければ負担していたであろう費用と実際に負担した費用との差額(本件事故により負担を免れた費用)を控除した額(逸失利益)とする。」

また、事業に支障が生じたために負担した追加的費用(従業員に係る追加的な経費、商品や営業資産の廃棄費用、除染費用等)や、事業への支障を避けるため又は事業を変更したために生じた追加的費用(事業拠点の移転費用、営業資産の移動・保管費用等)、避難指示等の解除後の減収分、避難指示等の解除後に事業の全部又は一部の再開のために生じた追加的費用(機械等設備の復旧費用、除染費用等)も、必要かつ合理的な範囲で賠償すべき損害と認められるとされています。


Q 農林水産業でないと営業損害は認められないのでしょうか。

A 農林水産業だけでなく、製造業、建設業、販売業、サービス業、運送業、医療業、学校教育その他の事業一般が対象であり、営利目的の事業に限られず、また、その事業の一部を対象区域内で営んでいれば対象となり得るものとされています。


Q 本件事故の前に、既に原料等を大量に仕入れています。今後の売上は殆どが利益になる予定でしたが、本件事故が起こってしまいました。この場合、これらを売上原価として算出すると、逸失利益が大幅に小さくなってしまうのですが、どう考えればよいでしょうか。

A 将来の売上高のための売上原価を既に負担し、又は継続的に負担せざるを得ないような場合には、当該売上原価は本件事故によっても負担を免れなかったとしてこれを控除せずに減収分(損害額)を算定するのが相当と認められるものとされています。本件事故後に予想された利益については、売上原価を差し引くことなく、全額逸失利益とすることができます。


Q 避難指示の後の損害でないと、営業損害とは認められないのでしょうか。また、営業損害の終期はいつということになるのでしょうか。

A 本件事故以降の営業損害であれば、避難指示等の前であっても営業損害と認められます。また、営業損害の終期は、従来と同じ又は同等の営業活動を営むことが可能となった日ということになりますが、中間指針ではその明確化を今後の課題としています。


Q 本件事故で、私が経営していた会社は倒産してしまいました。この場合、逸失利益はないので、営業損害はないということになるのでしょうか。

A 営業資産の価値が喪失又は減少した部分(減価分)、一定期間の逸失利益及び倒産・廃業に伴う追加的費用等が、営業損害となるとされています。


Q 本件事故を契機に、会社が事業を縮小し、私は、会社側の求めに応じて、自ら退職しました。この場合、損害賠償請求はできないのでしょうか。

A 「就労不能等に伴う損害 」として、対象区域内に住居又は勤務先がある勤労者については、避難による就労不能、勤務先の廃業などにより就労ができなくなった場合、給与等の減収が相当因果関係のある損害に該当するとされています。解雇であるかどうかは問いません。


Q 私は、4月から就職が決まっていた内定者ですが、本件事故を契機に契約しないと言われてしまいました。この場合、損害はないのでしょうか。

A 未就労者のうち就労が予定されていた者については、その就労の確実性によって、就労不能等に伴う損害を被ったとして賠償の対象となり得るものとされています。内定者の場合は、損害賠償が認められる可能性が高いと思われます。


Q 当社は、本件事故により事業が大幅に縮小した結果、従業員の殆どを自宅に待機させています。現在では給与を支払っているのですが、解雇した方がよいのでしょうか。

A 本件事故により就労できない従業員に会社が給与等を支払った場合には、解雇等はしなくとも、当該給与等相当額は営業損害になります。


6 財物損害

Q 「財物損害」については、どのような補償を受けられますか。

A 「財物価値の喪失又は減少等」として、以下のような基準が立てられています。なお、ここにいう「財物」とは、動産だけでなく不動産も含まれます。

Ⅰ) 避難指示等による避難等を余儀なくされたことに伴い、対象区域内の財物の管理が不能等となったため、当該財物の価値の全部又は一部が失われたと認められる場合には、現実に価値を喪失し又は減少した部分及びこれに伴う必要かつ合理的な範囲の追加的費用(当該財物の廃棄費用、修理費用等)は、賠償すべき損害と認められる。

Ⅱ) Ⅰ)のほか、当該財物が対象区域内にあり、

① 財物の価値を喪失又は減少させる程度の量の放射性物質に曝露した場合
   又は、
② ①には該当しないものの、財物の種類、性質及び取引態様等から、平均的・一般的な人の認識を基準として、本件事故により当該財物の価値の全部又は一部が失われたと認められる場合
  には、現実に価値を喪失し又は減少した部分及び除染等の必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。

Ⅲ) 対象区域内の財物の管理が不能等となり、又は放射性物質に曝露することにより、その価値が喪失又は減少することを予防するため、所有者等が支出した費用は、必要かつ合理的な範囲において賠償すべき損害と認められる。


Q 当社は、福島県内に不動産を有しており、その不動産を売りに出していました。まだ買い手は見つかっていなかったのですが、本件事故で、不動産の価格が大幅に値下がりしてしまいました。一部の不動産は値下がりした価格で売買でき、残りの不動産は売れ残っています。当該値下がり額は損害になるのでしょうか。

A 中間指針では、本件事故がなければ当初予定していた価格で契約が成立していたとの確実性が認められる場合は、合理的な範囲で現実の契約価格との差額につき賠償すべき損害と認められるものとされています。

したがって、当初の売出価格が客観的な価格であり、契約成立の確実性があったにも関わらず、本件事故が発生したために値下がりした価格になってしまい、その価格でようやく売れたという事案であれば、その値下がり額が合理的な範囲内である限り原子力損害と認められることになると思われます。

一方で、売買契約がまだ成立していない場合は、価格減少が継続すること(回復しないこと)などが明らかでないと損害額が確定できないとも考えられ、損害額の確定は慎重に行う必要があるものと思われます。


Q 当社は、当社が所有する福島県内の複数の不動産について、ある不動産は、売買契約成立の直前だったにも関わらず、本件事故により買主が手を引いてしまい、契約成立には至りませんでした。東京電力に対して損害賠償請求できるでしょうか。

A 中間指針では、本件事故がなければ契約が成立又は継続していたとの確実性が認められる場合は、合理的な範囲で賠償すべき損害と認められるものとされています。買主が購入を断念した理由について、当該観点から検討する必要があります。


Q 本件事故で経営が厳しくなりましたが、福島県内に所有する不動産を担保とすることを拒絶され、融資を受けることができませんでした。この場合、損害はあるのでしょうか。

A 中間指針では、本件事故がなければ融資の拒絶が行われなかったとの確実性が認められる場合は、合理的な範囲で賠償すべき損害と認められるものとされています。合理的な範囲の算定は事情によって違いますが、営業損害の項目が参考になると思われます。詳細はご相談ください。


Q 当社は、当社が所有する福島県内の建物について、複数の賃貸借契約を締結していましたが、一部の借主には中途解約され、あるいは更新されず、またそのまま住んでもらっている入居者に対しては、賃料を引き下げざるを得なくなりました。この場合、損害についてはどのように考えたらよいでしょうか。

A 賃貸借契約の中途解約、更新拒絶、賃料の減額等については、本件事故がなければそれらが行われなかったとの確実性が認められる場合には、合理的な範囲で賠償すべき損害と認められるものとされています。本件事故がなければ中途解約や更新拒絶には至らなかったといえるか、賃料減額がやむを得ないものであったか、賃料の引き下げ幅が妥当であったか等が詳細に検討されることになると思われます。


7 風評被害

Q いわゆる風評被害については、どのように定義されていますか。

A 「報道等により広く知らされた事実によって、商品又はサービスに関する放射性物質による汚染の危険性を懸念した消費者又は取引先により当該商品又はサービスの買い控え、取引停止等がされたために生じた被害」を意味するものとされています。


Q 風評被害はどの範囲まで原子力損害に入るのでしょうか。

A 「消費者又は取引先が、商品又はサービスについて、本件事故による放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理が、平均的・一般的な人を基準として合理性を有していると認められる場合」には、本件事故と相当因果関係のある損害と認められるとされています。


Q 一般的な基準はわかりましたが、具体的な損害名目はどのようなものになりますか。

A 消費者又は取引先が商品又はサービスの買い控え、取引停止等を行ったために生じたものとして、

①営業損害(取引数量の減少又は取引価格の低下による減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用(商品の返品費用、廃棄費用、除染費用等))

②就労不能等に伴う損害(①の営業損害により、事業者の経営状態が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等を余儀なくされた場合の給与等の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用)

③検査費用(物)(取引先の要求等により実施を余儀なくされた検査に関する検査費用)

が挙げられています。


Q 風評被害に関する具体的な例示はありますか。

A 農林漁業については、農林産物、畜産物、水産物等について、放射性物質が発見されたと報道等がされた都道府県名を具体的にあげて、当該都道府県で産出されたものの買い控えの被害を、原子力損害にあたるものとしています。

観光業については、福島県、茨城県、栃木県及び群馬県に営業の拠点がある観光業について、本件事故後に観光業に関する解約・予約控え等による減収等を原子力損害にあたるものとしています。

製造業・サービス業等については、福島県で製造されたり提供されたりする物品やサービス等に関する被害や、サービス等を提供する事業者が福島県への来訪を拒否することによる被害などについて、原子力損害となりうる旨記されています。


Q 輸出に関して、外国ないし外国企業によって、輸出製品に放射性物質に関する厳しい審査が課されたり、取引を打ち切られたりしたことによって損害が発生した場合、その損害は原子力損害といえるのでしょうか。

A 輸出に係る風評被害については、以下のように規定されており、輸出先の事情により損害が発生した場合にも、原子力損害に該当するものがあります。

Ⅰ) 我が国の輸出品並びにその輸送に用いられる船舶及びコンテナ等について、本件事故以降に輸出先国の要求(同国政府の輸入規制及び同国の取引先からの要求を含む。)によって現実に生じた必要かつ合理的な範囲の検査費用(検査に伴い生じた除染、廃棄等の付随費用を含む)や各種証明書発行費用等は、当面の間、原則として本件事故との相当因果関係が認められる。

Ⅱ) 我が国の輸出品について、本件事故以降に輸出先国の輸入拒否(同国政府の輸入規制及び同国の取引先の輸入拒否を含む。)がされた時点において、既に当該輸出先国向けに輸出され又は生産・製造されたもの(生産・製造途中のものを含む。)に限り、当該輸入拒否によって現実に廃棄、転売又は生産・製造の断念を余儀なくされたため生じた減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用は、原則として本件事故との相当因果関係が認められる。


Q 当社は対象区域外に事業所を有しているのですが、本件事故後に売上が大幅に減少しています。全売上減少額について損害賠償請求をしたいですが、認められるでしょうか。

A 過去には、納豆製品や魚介類の売上減少について風評被害を肯定した例がありますが、パチンコ店の売上減少の風評被害を否定した例などもあります。対象区域外の企業については、本件事故のために売上が減少したといえるのか、他の要因はないか、逸失利益のどの程度をどの期間請求できるかなど、慎重に判断する必要があります。風評被害の場合は特に時間的限界が問題になります。過去には、予想される粗利の2ヶ月間分を認めた例、予想される粗利の2.5ヶ月分(粗利の2分の1につき、5ヶ月間分)を認めた例などがありますが、本件事故の場合は、中長期的に損害が認められるものと思われます。


8 間接被害

Q 間接被害は、どのような場合に認められますか。

A 間接被害を受けた者(間接被害者)の事業等の性格上、第一次被害者との取引に代替性がない場合には、本件事故と相当因果関係のある損害と認められるものとされています。

そして、中間指針では、間接被害として以下の3つの具体的類型が挙げられています。

① 事業の性質上、販売先が地域的に限られている事業者の被害であって、販売先である第一次被害者の避難、事業休止等に伴って必然的に生じたもの。

② 事業の性質上、調達先が地域的に限られている事業者の被害であって、調達先である第一次被害者の避難、事業休止等に伴って必然的に生じたもの。

③ 原材料やサービスの性質上、その調達先が限られている事業者の被害であって、調達先である第一次被害者の避難、事業休止等に伴って必然的に生じたもの。


Q 間接被害として損害賠償請求できる損害とはどのようなものですか。

A 以下の2種類の損害が一般的に認められるものとされています。

① 営業損害    第一次被害が生じたために間接被害者において生じた減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用

② 就労不能等に伴う損害    ①の営業損害により、事業者である間接被害者の経営が悪化したため、そこで勤務していた勤労者が就労不能等を余儀なくされた場合の給与等の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用


Q 当社は福島県の事業者から原材料を仕入れていますが、この原材料は、日本国内ではその福島県の事業者しか製造することができません。ところが、本件事故により当該事業者の事業が休止してしまったため、当社は原材料を仕入れることができず、売上げが減少してしまったほか、海外の事業者に調達先を変更したことによる追加費用が生じてしまいました。損害賠償請求はできますか。また、間接被害として損害賠償請求できる損害についても教えてください。

A この事案は、「事業の性質上、調達先が地域的に限られている事業者の被害であって、調達先である第一次被害者の避難、事業休止等に伴って必然的に生じたもの」にあたりますので、損害賠償請求が可能です。

次に、間接被害の範囲ですが、売上の減収分は、営業損害として認められます。一方、追加費用についても、必要かつ合理的な範囲で、営業損害として認められることになります。海外の事業者の選定方法、追加費用の金額についての根拠など、諸事情を勘案して、認められる範囲を判断することになります。


9 その他の具体例

Q 私の経営している会社の事業所は、福島県内の対象区域外にありますが、本件事故をきっかけに深刻な経営難になりました。対象区域外なので、損害賠償は受けられないのでしょうか。

A 原賠法で被害対象になるものである限り、損害賠償を受けることはできます。東京電力では、対象区域外にある法人の損害の場合、被害概況申出書の提出を受けて審査をすることになっています。


Q 私の経営している会社は、福島県外にありますが、福島県の対象区域内外の取引先からの供給がストップして、深刻な経営難になりました。補償は受けられないのでしょうか。

A 原賠法で被害対象になるものである限り、補償を受けることはできます。東京電力では、被害概況申出書の提出を受けて審査をすることになっています。


Q 大震災以後、放射能のせいだと思うのですが、健康状態が優れません。健康被害が認められるケースはどのようなものでしょうか

A 健康被害の因果関係を立証する必要がありますが、科学的根拠を示す必要があり、政府発表の許容量より被曝した放射線量が小さい場合、低線量被曝により健康被害が出るのには時間がかかるため、被曝量を測定し続ける必要があります。因果関係を立証できるか否かは慎重に判断すべきです。


Q 風評被害で損害額を算定しています。当社は事故後、テレビCMを自粛しました。また、当社の製品について放射線量を調べているところ、政府が定めた基準を上回ったことは一度もないのですが、お客様からクレームが多いために優秀な従業員が集まりにくくなったりして困っています。これらの当社の不利益は損害といえないのでしょうか。

A 過去には、テレビコマーシャルの放映を中止せざるをえなくなったことによる営業損害としてテレビコマーシャル費の2分の1を認めた例や、ブランドイメージが少なからず打撃を受けたこと、多数の問い合わせを受けた対応に多大な労力と時間を費やしたこと、臨界事故の影響で売上げが減少したことにより社内の志気等にも少なからぬ影響があったこと等の無形損害を認めた例もあります。詳しくはご相談ください。




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