トピックス

■老後のための資産管理−任意後見人制度

  近年高齢化が進み、また私自身歳をとってきたからでもありましょうが、自らが認知症などになったときのために、日常生活や療養看護等の身上看護に関すること、また財産管理に関することなどに関して備えをしておきたいという相談が増えています。

  また、自分の親が認知症になったとき、親のためにその希望にそった医療契約などを締結するために、銀行で親の預金の払い戻しを求めても銀行が払戻しに応じないことも多く、これにどう対処するかも考えておかなければなりません。

  今回は、こうした場合に備える制度である「任意後見人制度」についてお話しします。認知症の進行により判断能力が不十分になってしまった後は、家庭裁判所に申立をして、後見人等を選任してもらう「法定後見制度」を利用するしかありませんが、いまだ判断能力が十分である間は、任意後見人制度を利用して、老後に備えることが可能です。


1 後見人制度の内容

  後見人制度には、まず大きな括りとして未成年者を対象とする未成年後見制度と成 年者(多くは高齢者)を対象とする成年後見制度があります。成年後見制度は、認知症を発症した高齢者などのように、精神上の障害により判断能力が不十分であるため、法律行為に関する意思決定が困難な人のために、その生活全般に関して必要な意思決定を代行・支援する制度であって、未成年者に対する後見制度とは別に、成年者であっても判断能力が不十分な人のために後見人を選任し、支援、保護しようというものです。

  そして、成年後見制度には、判断能力が十分な時に当事者間(例えば、親と子供) の契約によって後見人を選任する「任意後見人制度」(任意後見契約に関する法律の規定による)と判断能力が不十分になった後に関係者が家庭裁判所に申立を行い、家庭裁判所が後見人を選任する「法定後見人制度」(民法の規定による)があります。

  従来は、判断能力が不十分になった後に、事後的に国家が関与して保護を与える法 定後見人制度しかありませんでしたが、平成12年4月1日から、介護保険制度とともに新しい成年後見制度がスタートし、この中で任意後見人制度が設けられました。その趣旨は、国家の関与によるものではなく、まさに自らの人生設計における自己決定権の行使をして、老後の身上看護や資産管理に備えるというものです。

  この制度によって、判断能力が不十分であると判断されるために、資産があるにも かかわらず、自らが望んでいた医療契約や入院契約が締結できないとか、介護施設への入所ができないなどといった事態を回避することができます。また、認知症の親がいる子供の立場の場合は、親が上のような希望をもっていたのでそれを実現してあげようとしても、子供だからといって親の資産の管理・処分権があるわけではありませんから、親の資産を親のために有効利用してあげられないというような事態も回避できることになります(子供を後見人にしていれば)。

  このように、任意後見人制度は、予め自分の信頼できる人を後見人に選任しておき、 自分に代わって、自分の財産を管理したり、必要な契約を締結しもらうことによって、自らの老後の生活を自ら決めた人生設計通りに実現することを可能とするものです。


2 任意後見契約

  任意後見契約は、公正証書で行わなければなりません。

  これは、本人が真意に基づき後見契約を締結するものであることや契約の内容が法律的に有効なものであることを確保することを制度的に保証しようとするものです。

  契約の内容は、本人の日常生活や療養看護等の身上看護に関する契約締結(介護契約、施設入所契約、医療契約の締結等)や、財産の管理・処分(預貯金の管理・払戻し、重要な財産の管理・処分など)などを委任することが中心になりますが、委任の内容や範囲は自由に決めることができます。ただ、一審専属的な権利の代理を委任することは法の趣旨に反しますので、これを盛り込むことはできません。例えば、結婚・離婚、認知、養子縁組などのように代理になじまない事項です。

  なお、後見人は成人であればよく、自ら信頼する人を後見人とすることができます。身内、友人、専門職などの第三者でもかまいません。

  報酬を払うかどうかも合意によることになり、親族の場合は無報酬であることが一 般であると思います。


3 任意後見の開始時期

  任意後見は、本人の判断能力が十分でなくなったときに開始します。具体的には、任意後見人になることを引き受けた人(「任意後見受任者」といいます)や親族等が、本人の同意を得て、家庭裁判所に対し、「任意後見監督人」を選任して任意後見を開始して欲しい旨の申し立てをします。

  任意後見監督人が選任されると、後見が開始します。

  これは、任意後見人に本人が信頼できる人を選任しておいたとしても、本人の資産を管理する大きな権限を行使することになりますから、念のために実際の仕事が適正に行われているかどうかを家庭裁判所が選任する任意後見監督人が監督するというものです。

  なお、任意後見監督人には、本人の資産の中から報酬が支払われます。


3 法定後見人制度

  任意後見人制度は、いまだ判断能力が十分なときに自らが信頼できる人を後見人に選任して後見契約を締結し老後に備える制度ですが、法定後見人制度は、そのような契約がない場合で、本人の判断能力が不十分な場合に、本人を保護するために、本人、配偶者親族その他の関係者が家庭裁判所に申立を行い、本人の判断能力に応じて「後見人」、「保左人」、「補助人」を選任することによって、本人を保護・支援する制度です。