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亀井金融担当大臣!!中小企業を助けるための「平成の徳政令」ではなかったのですか?
中小企業等金融円滑化法の概要



 平成21年11月30日に臨時国会で可決成立した「中小企業等金融円滑化法」(正式名、「中小企業等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律)が、同年12月4日に施行されました(態勢整備に係る部分は平成22年2月1日から施行)。

 この法律は、亀井静香金融担当大臣が「一定期間、中小企業の債務返済を猶予させる法案」などとブチ上げたもので、モラトリアム法とか徳政令を想像させるものであったために金融機関を震撼させ、また金融機関の株価下落を引き起こすことになりました。しかも臨時国会では、自民党の審議拒否、民主党の強行採決という正常とは言い難い過程を経て、成立したものです。小泉、竹中路線との決別を声高に主張する亀井大臣の私怨をはらすためかのような執念ぶりに、半分あきれて推移を見ていた方も多いことでしょう。

 その法律の概要は、以下の通りです。
1 対象金融機関は、銀行や信用組合等の預金取扱金融機関です。
2 申込の資格者は、「中小企業者」と「住宅資金(住宅ローン)借入者」です。
3 申込者から、債務の弁済に支障を生じており、または生じるおそれがあることを理由に債務弁済の負担の軽減の申込があった場合、金融機関は、申込者の事業についての改善又は再生の可能性その他の状況を勘案しつつ、できる限り、貸し付け条件を変更するなどして負担の軽減に資する措置をとる努力義務を負います。
4 金融機関は、申込者に対して貸付債権を有する他の金融機関や保証をしている信用保証協会等と緊密な連携を図る努力義務も負います。
5 金融機関は、上記の3と4の措置を円滑にとることができるように、金融機関における対応の基本方針を策定しなければなりません。
6 金融機関は、とった措置の状況に関する事項を記載した書類(「申込」、「実行」、「審査中」、「取り下げ」に分けて、「貸付条件の変更等」の内容を記載する)を作成し、公衆が閲覧できるようにし、またその内容を行政庁に報告しなければなりません。
7 行政庁は、金融機関に対する検査および監督の実施にあたり、この法律の趣旨を十分に尊重しなければなりません。
8 政府は、この法律の目的に資するように、信用保証協会の信用補完事業の充実をはかります。そして、この規定を受けて、条件変更対応保証制度の運用が開始されています
http://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/shikinguri/download/091202ShikinguriChirashi.pdf参照)。

 結局、実際に可決成立した法律の内容は、中小企業者等から返済猶予などの条件変更の申込があった場合は、「その実現にできる限り努めるものとする」といった金融機関の努力義務を課すものであり、何らかの強制力を伴うものではありません。

 とはいっても、その実効性は、行政庁の検査監督を通して担保するという制度設計になっており、この目的の実現のために金融検査マニュアルもすでに改訂されており、そこでは金融機関にコンサルタント的な機能を果たしているかどうかを検査監督の対象にすることとされています。債務整理や事業再生の場面では、ほとんど債務者側の代理人として職務を行ってきた筆者としては、金融機関にはけんもほろろの対応をされてきた経験が多いので、それが努力義務であったとしても対応結果が公表され、かつ行政庁に報告され、努力の内容ないし努力の結果が検査の対象となること自体、我々の職務遂行をバックアップしてくれるすごい法律だと思います。

 しかも、金融機関に対して、貸し渋りや貸しはがしをするなという消極的な指示をするものではなく、事業がうまくいっていない中小企業者等のコンサルタントになって事業の改善ないし再生に協力しろというのですから、亀井大臣の面目躍如ともいえるでしょう。

 この法律が、マクロ経済の観点から競争力の脆弱な日本の金融機関の業務収益にどのような影響を与えるのかは未知数ですが、やたら貸し渋りや貸しはがしを強行しても金融機関の収益力が向上するものでもないことは明らかでしょうから、金融機関にはむしろ中小企業者等のコンサルタント的役割を果たしてもらい、互いに収益を得る機会を増やしましょうという理念は、行政庁が示す方向性としてはまんざら不合理ではないでしょう。ただ、BIS規制とのかねあいなど金融当局は多方面から検討しなければならない課題も多く残ることと思われます。私も、個別の債務整理ないし再生事案の処理というミクロの世界からではありますが、推移を見守っていきたいと思います。