トピックス

独立役員の制度について
一般投資家はゴミではない。
東証が一般投資家保護のために独立役員の制度を創設


1 はじめに
  上場会社のコーポレイト・ガバナンスに関する議論が活発であるが、株式会社東京証券取引所(以下「東証」という。)では、平成21年12月に有価証券上場規程等の一部改正を実施し、すべての上場会社が備えるべきコーポレート・ガバナンスの枠組みとして、「独立役員」の確保を求めることとした。すなわち、上場会社は、「一般株主」保護のため、社外取締役もしくは社外監査役の中から、「一般株主と利益相反の生じるおそれのない者」を「独立役員」として一名以上確保することが義務づけられることになったのである(有価証券上場規程(以下、「規程」と言う)第436条の2第1項)。

  「一般株主」という用語については、規程、金商法、会社法等に明確な定義があるわけではない。その意味・内容に関しては、「上場会社には、株式の流通市場を通じた売買によって変動しうる株主が多数存在しており、その多くは個々の株主としては持分割合が少ないために単独では会社の経営に対する有意な影響力を持ち得ない株主である。このような株主を一般株主と呼ぶ。」と説明されている(東証の諮問機関である上場制度整備懇談会が公表した「独立役員に期待される役割」(以下「期待される役割」という。)参照。)。

 この規程は、別途東証が規定した「第三者割当増資規制」とともに、従前の適時開示を中心とした東証の規制内容から大きく一歩踏み出すものである。

2 意義
 これまでも、企業の不祥事等が起こるたびに、社外取締役もしくは社外監査役の役割を強化すべき等の議論が行われてきたところではあるが、今般、東証が、この「社外取締役もしくは社外監査役」とは別個の概念である「独立役員」なるものを創設し、「一般株主」保護のために上場企業にその確保を要請する目的はどこにあるのだろうか。

 この点に関し、上記「期待される役割」は次のようにいう。
① 上場会社は、一般株主が存在することで円滑な資金調達機会を得るなど、様々なメリットを享受しているが、これらの一般株主は、上場会社の経営に対する影響力が弱く株式の流動性も高いために、上場会社の経営において、その利益に対する配慮がともすると失われがちである。
② 一般株主の利益が適切に保護されることは、証券市場を通じた資金調達機能等が適切に発揮されるための条件であり、株式の上場制度の根幹をなすものであると言える。上場会社と我が国経済の発展にとっても、一般株主の利益が適切に守られる環境を整備することは重要である。
③ 利害関係者の多くは、上場会社の企業価値の向上によって恩恵を受けることになるが、個々の利害関係者の利害は、常に一致するわけではない。特に、上場会社の経営者と一般株主との間の利害の相違が顕在化する局面では、ともすると一般株主の利益を軽視した決定がなされるおそれがある。こうした局面では、一般株主の利益に配慮した公平で公正な決定がなされる仕組みが上場会社のなかに設けられることが、強く求められる。例えば、MBO、買収防衛策の導入、実施、第三者割当増資などが典型的な局面である。
④ また、通常の業務執行のプロセスにおいても、日常の経営判断の積み重ねが結果的に一般株主の利益を損ねる場合があるから、ここでも一般株主の利益に対する配慮が求められるべきであることはいうまでもない。
⑤ こうした場合、上場会社の重要な業務執行に係る決定は取締役及び監査役の出席する取締役会で行われるため、その取締役会に参画している取締役又は監査役の中に独立した立場の者の存在が確保されることが、重要である。


独立役員制度の意義はまさに上記の通りであり、筆者の評価としては極めて意義深いというものである。

 会社と取締役の利益が相反する場面では、会社法はこれを規律する規定をおいて会社の犠牲のもとに取締役が利益を得ることがないように手だてしているが、取締役と株主、特に一般株主の利益が相反する場面については、会社法にこれを直接に規律する規定は存在していない。そして、取締役が業務執行に係る決定を行うに際して、こうした一般株主の影響力は極めて弱いために、その利益に対して配慮する動機を欠くことになる。

 そのため、上場会社において上記の通り極めて重要な存在である一般株主に対する利益保護の感覚が麻痺することになって、従業員や取引先などの利益への配慮は重視するものの、一般投資家(特に短期売買を行う一般投資家)の利益への配慮には欠けることになる。一般投資家はゴミ同然である。そのため、特にその利益が鋭く対立するMBO、買収防衛、第三者割当増資、子会社上場などの局面においては、往々にして一般株主の利益を著しく損なう決定がなされることになる。それにもかかわらず、この点に関する法規範が存在していないのであって、行政及び立法担当者においても、一般株主保護の重要性に関する理解が薄弱であったとしかいいようがない。

 そのため、今般、一般株主保護の体制作りに最も関心を払うべき立場にある証券取引所が、その規程の改正という方法で、これに着手したところに大きな意義があるものである。

 なお、筆者は、社外取締役や社外監査役の役割に関して一般株主を保護することにあるとの主張を行っていたが賛同する者は少なく、企業不祥事をなくすためのコンプライアンス等の局面での役割が期待されるものと理解されてきたようである。その意味で、今般、東証による「独立役員」という制度の創設においては、その規程内容に一般投資家たる少数株主を保護することを明記して、その目的を明らかにしたところに大きな意義があると評価するのである。

3 期待される役割
 「独立役員」には、取締役会などにおける業務執行に係る決定の局面等において、一般株主の利益への配慮がなされるよう、必要な意見を述べるなど、一般株主の利益保護を踏まえた行動をとることが期待されることになる。

 詳細は、東証の諮問機関である上場制度整備懇談会が公表した「独立役員に期待される役割」を参照。

4 独立役員の要件
 確保が求められる「独立役員」は、社外取締役もしくは社外監査役の中から指定される。

 本制度の制度趣旨からすれば、「独立」といえるためには、①経営陣から著しいコントロールを受ける者、または②経営陣に対して著しいコントロールを及ぼしうる者、以外の者である必要がある。

 そのため、規程においては以下の者は、独立役員の指定を受けられないと規定する。
① 当該会社の親会社または兄弟会社の業務執行者(業務執行取締役、執行役その他の法人の業務を執行する役員及び使用人)
② 当該会社を主要な取引先とする者もしくはその業務執行者または当該会社の主要な取引先もしくはその業務執行者
③ 当該会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント、会計専門家、法律専門家
④ 最近において①から③までに該当していた者
⑤ 次の者の近親者
ア) 上記①から④までに掲げる者
イ)、当該会社もしくはその子会社の業務執行者
ウ) 最近においてイ)に該当していた者

5 開示
上場会社は独立役員の氏名及びその指定理由をコーポレイト・ガバナンス報告書において開示する必要がある。
なお、指定した独立役員が以下に該当する場合は、下記に該当するにもかかわらず指定する理由を開示しなければならない。
① 当該会社の親会社または兄弟会社の業務執行者等(業務執行者又は過去において業務執行者であった者、以下同じ)
② 当該会社を主要な取引先とする者もしくはその業務執行者等または上場会社の主要な取引先もしくはその業務執行者等
③ 当該会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント、会計専門家、法律専門家
④ 当該会社の主要株主
⑤ 次の者の近親者
ア) 上記①から④までに掲げる者
イ)、当該会社もしくはその子会社の業務執行者
ウ) 最近においてイ)に該当していた者

6 確保時期
 上場会社は、平成22年3月末日までに独立役員確保の状況を東証に届出る必要がある。

 但し、実効性確保措置(公表措置(508条))の適用は、原則として平成23年3月1日以後に終了する事業年度の係る定時株主総会後からとなる。