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私たちにとっての国際事件、渉外事件の有り様について

私たちの国際事件、渉外事件は、当事務所の国際、渉外部門の中心である竹内康二弁護士が法律家となる前から、ある程度の始まりがあったといえるかもしれない。それは、同弁護士が、American Field Serviceの高校留学生として渡米をしたときの若い体験、交流から形成していると思われる異文化感性、普遍性、平等で公平なる手続感覚、諸国への積極的信義という特性が、その後の法律家としての実務、勉学、論文発表、再度留学、ニューヨーク州法曹資格取得、諸国法律家との交流、外国法律実務の処理体験などによる肉付け、修正を経て、変容を遂げながらも現状の基礎を構成しているからであるように思われる。また、私たちの事務所の形成自体が、1970年代の時代背景のもとでの米国からの大学留学生に係わる学籍確認を巡る民事訴訟、出入国管理令を巡る行政訴訟に契機があったことも、そういった始まりの一部であったといえる。また、すでにそれなりの名を成していた当時に名だたる渉外事務所の勤務弁護士から私たちの事務所が生まれたわけでもないことも、そのような始まりを性格づけている。

しかし、私たちにとっての本格的な国際事件、渉外事件は、1982年竹内康二弁護士が再度の留学として、米国コロンビア・ロー・スクールに留学したことから始まった。しかし、当時から、すでに、今日のわが国巨大事務所を形成することとなる名だたる渉外事務所からの留学ではないという特色からみて、その特性、方向性は、それなりの自己吟味がなされていたように思われる。その第1は、英語による法律案件の処理能力において、行政(外務省)、いわゆる渉外事務所の実務法律家(典型渉外弁護士)に負けないという自負と継続的な目標設定である。最も重要であると考えたのは、口頭での立派な英語による論述力であり、ついで、書かれた立派な英語による論述力である。友好的な環境での会話力は、実益が多くはないので、無視するか、特に追求しないこととした。その第2は、米国法書籍の充実、外国法文献の収集である。現に、私たちのこのような書籍、印刷情報は、おそらく現在の巨大事務所の渉外書籍の量、内容と比較して、遜色がないか、多くの場合はこれを凌駕している。勿論、ITのもとでの電磁的方法による文献収集の機能も、同じような地位にある。その第3は、国際事件、渉外事件は、その渉外的関係のある諸国の会社法、証券取引法、経済法に関わるだけではない、という認識にある。商事としては、契約法、商取引法、担保法、倒産法が重要であるという認識を併せ持っている。しかし、不動産法、労働法、家族法も同じように重要である。重要性、理論性、研究深度、英語表現、そしてわれわれにとっての難度のいずれにおいても、どの分野も同じである。勿論、これらの全てに一流であることは、本場の弁護士でも不可能である。しかし、会社法、証券取引法だけでことが終わると思うのであれば、そのような考えは誤りであり、さらには、もしも会社法、証券取引法が優越すると思うのであれば、そのような考えは、傲慢であるとの基本認識を、自戒としても、競争的な発想としても、持っていることである。その第4は、有力な法学者の多くは渉外的な資料収集力、法律情報の処理能力、そして日本法との総合、統合、比較能力を備えているが、私たちの国際情報、渉外情報との関わりも、当初の学者的な使用の時期から順次実務家的活用が並存する期へと移行する歴史的流動体をなすものと思われたことである。そして、この考えは、法律事務所の規模、投入する若手の人数は、弁護士報酬の計算にかかわるとしても、本質的には、事案の成功不成功、勝利敗北には無関係の因子であるとの基本認識にも繋がる。ある米国最高裁判事が、米国法を支えているのは巨大事務所ではなく、各地で単独経営をしている小規模事務所(solo’s)であると述べたことがあるが、勿論、これは真実であるという確信がある。その第5は、私たちの扱う法原則、法原理、法的価値基準は、歴史的、地理的な生成過程を持ってはいるが、それでも、その多くは、人間の営みを整除するにあることから、万国普遍性があるという楽観主義を、私たちが持っていることである。表現を変えれば、柔軟の継受の精神が旺盛であるということである。地域の特殊性を、何らのためらいもなく自慢と共に述べる気風を避けているというべきである。

このようにして、私たちは、現段階を迎えている。私たちは、これまで、国際事件、渉外事件の体験、成果などを公表してきたことはない。それは、依頼人の秘密を商業的利益のために利用することの倫理上の懸念、弁護士の側が勝手に自信過剰的に成果と思うものを掲げることへの躊躇による。ただ、もはや縁故、交友、社会的関係だけで法律業務の提供者を選別することは、かえって依頼人にとって最善ではないとすれば、多少の経験を述べることは許され、あるいは必要とされるのかもしれない。これまでを多少振り返って少しく述べることをお許しいただく。現在の私たちの国際事件、渉外事件を処理する体制は、米国のロースクールでの修士課程を終了したわが国弁護士が4名、中国の大学法律用語専修課程を終了したわが国弁護士が1名、米国法曹資格を有する弁護士が4名、外国人国籍外国弁護士が1名、渉外事務所からの移籍弁護士が2名、そして若干の渉外パラリーガルからなる。(なお、上記の人数は、重複した該当者も含めているので、総員数とは合致しない。)

おそらく、私たちの国際事件、渉外事件として、実績がありかつ質的にも高度の水準を維持しているのは、
第1に掲げることができるとすれば、国際倒産事件であるといえる。国内企業の破綻にともなう、海外子会社、海外財産の再編、処理に係わる業務である。管財人として、あるいは債務者代理人としての行動が含まれる。また、海外企業の破綻に伴うわが国拠点の再編、処理についても同じである。これには、国際倒産に派生する倒産訴訟案件がある。そして、学術的な諸論文、国際機構(国際連合、世界銀行、IMFなど)での企画立案への参画、諸国際会議での発表などがある。
第2には、日本企業(メーカー、商社、大型小売店、不動産など)の欧米、韓国、東南アジアなどへの海外直接投資、資本取引、海外展開、海外販売、海外生産、そしてこれらに伴う企業統治、企業倫理につき、これを支援する業務である。これには、企業の設立、資本の確保・移転がある。また、海外企業の日本進出、日本展開、日本の業統治、企業倫理につき、これを支援し、誤りなきを期する業務がある。
第3には、日本企業(メーカー、商社、大型小売店、不動産など)の中国への海外直接投資、資本取引、海外展開、海外販売、海外生産、そしてこれらに伴う企業統治、企業倫理につき、これを支援する業務である。このような中国進出、中国からの転進などについては、所属の中国出生の外国国籍外国法弁護士およびその一族法律家、これまでの中国進出支援業務において築き上げた法律事務所ネットワークをもって、中国ビジネスを拡大している。
第4には、人的財産担保法(動産、債権、有価証券、その他財産権を目的とする担保権)に関する契約実務がある。主として、米国の統一商事法典の研究からはじまり、国際金融あるいは国際的企業再編に伴う人的財産担保の取得、登録、競合債権者・第三取得者との優劣、債務不履行などにかかわる実務を行なってきている。また、わが国企業向けの米国人的財産担保法に関する講演を、10年近く継続して行なっており、情報の更新も行なうことができている。
第5には、私たちの国内部門の特色ともっともよく連動し、かみ合う部門として、国際訴訟をあげることが出来る。わが国の巨大商社、大規模メーカーが外国で巻き込まれた民事訴訟の外国弁護士との連携による外国民事訴訟の攻防への参加ではないかと思われる。これまで、いわゆる裁判官裁判だけではなく、陪臣員裁判の体験があり、さらには集団訴訟(クラスアクション)があり、幸いに勝訴を続けている。また、訴訟前の証拠開示についても、数多くの臨席、指導、発問などの経験を積んでいる。
第6には、国際的企業の合併、分割などの再編、内外資産担保による国際的ファイナンスの業務がある。これまでに、数千億円規模の案件を含めて、このような法律業務と多数当事者による取引完結事務(クロージング)を行なうことができている。これには、会社法、証券取引法、独占禁止法、外資・外為法など関連規制を駆使する必要がある。
第7に、いわゆる国際売買、輸出入取引、無体財産権に基づく多くのライセンス、外国企業との共同開発契約、国際的映画製作・配給契約、芸能スポーツの国際興行契約などの、国際商取引契約が含まれる。この中には、関連する各国の租税法規、租税条約の対象時効の処理が含まれる。また、この分野での研究、著作も少なからず発表している。
そして、第8に、国際的な人事、家庭、年金など金融資産、生死に係る保険、相続、遺言に関して、数多くの事案において、関係する複数国の内国法、内国手続、租税問題、租税条約につき、実績を積んでいる。