トピックス

堀江氏が塀に落ちたライブドア事件
「安ければ買うし、高ければ売るのは当たり前」という徹底した利益至上主義によって裁判官を慄然とさせた村上氏が執行猶予で、粉飾の額が過去の事例との比較において少額だとされたライブドア事件の堀江氏が実刑とされたわけ−堀江氏ってそんなに悪なの
(平成19年3月16日東京地裁判決、同20年7月25日判決、最高裁平成23年4月26日判決)


 本年4月26日、最高裁は、ライブドア事件において、証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載、偽計・風説の流布)の罪に問われた堀江氏の上告を棄却したため、これにより懲役2年6月の実刑とした高裁判決が確定しました。

 東証マザーズ上場、M&Aを駆使した急激な業容拡大、飛躍的な業績向上による大幅な増収増益の達成、プロ野球球団買収表明、ニッポン放送株の支配権を巡るフジテレビとの攻防、衆院選出馬などにより世間の注目を一身に集め続けた堀江氏も、実刑判決が確定したために収監されてしまいましたが、証取法違反で実刑判決が言い渡され、収監されるというのは極めてめずらしいことです。「安ければ買うし、高ければ売るのは当たり前」という徹底した利益至上主義によって裁判官を慄然とさせた村上ファンド事件の村上氏が執行猶予がついたのに、粉飾の額が過去の事例との比較において少額だとされたライブドア事件の堀江氏が実刑とされた理由はどんなところにあったのでしょうか。

 本稿では、「堀江氏ってそんなに悪なの」というテーマを取り上げます。

1 裁判の概要
 裁判では、ライブドアの平成16年9月期連結決算で、子会社が投資事業組合(ファンド)を通して保有していた自社株(ライブドア株)を売却し、その売却益を売上として計上した連結会計処理が粉飾決算(有価証券報告書の虚偽記載)に当たるかどうかや、堀江氏がそのような会計処理の違法性を認識していたかどうかなどが争われました。

 有価証券報告書の虚偽記載を巡って会計基準が争点となったケースに、日本長期信用銀行の粉飾決算事件がありますが、この事件で最高裁は、長銀元頭取らに逆転無罪を言い渡していましたので、今回の事件において、最高裁がどのような判断を示すのか注目されていました。

 堀江氏は、第1審と控訴審において、上記最高裁判決を根拠に、上記連結会計処理を違法はでないと主張しましたが、裁判所は、「ファンドは脱法目的のダミー」であり、子会社が保有する自社株(ライブドア株)の売却益を売上計上したものであって、違法な売上計上(粉飾決算)であると判断しました。要は、子会社が親会社株を保有することは禁じられており、また子会社が親会社株式を処分したときは、これは子会社の売上として計上することはできず、資本勘定に計上されることになっており、この点については争いはありませんので、ファンドを通して子会社が保有する親会社株式に関し、ファンドが脱法目的のダミーか否かが、争われたのです。

 また、堀江氏は、「過去の粉飾決算事件と比べて粉飾額は少なく、実刑は重すぎる」などと量刑不当も訴えましたが、裁判所は「粉飾金額そのものは小さくても、成長を装った粉飾は多くの投資家の投資判断を誤らせ、投資家に経済的損失を蒙らせた犯行結果は大きい」として証取法違反事案では異例の実刑を選択しました。

2 犯罪事実
 裁判所が認定した犯罪事実は以下の2つの事実です。

(1)第1の犯行事実 有価証券報告書の虚偽記載
 堀江氏は、ライブドア取締役らと共謀し、同社の平成16年9月期連結決算で、実際には約3億円の経常損失が発生していたのに、売上計上が認められない自社株(ライブドア株)売却益約37億円を計上し、さらに約16億円の架空売上を計上するなどして経常利益を約50億円として記載した内容虚偽の連結損益計算書を掲載した有価証券報告書を提出したという事実です。

(2)第2の犯行事実 偽計・風説の流布
 堀江氏が、同社の取締役らと共謀の上、ライブドアの子会社(上場会社)であるバリュークリックジャパン(以下、「VCJ社」)が、同じくライブドアの完全子会社であるライブドアファイナンス(以下、「LF社」)が既に投資事業組合名義で買収していたマネーライフ(以下、「ML社」)を株式交換によって完全子会社化するスキームを策定した上で、まず、その株式交換比率を不正に操作してLFの所有するファンドに対してVCJ社株式を過大に割当て、次にVCJ社において架空の売上を計上するなどして好業績を装いVCJ社株式の株価を維持上昇させた上で、上記株式交換によりLF社がファンドを通じて取得・保有しているML社株式を売却して利益を得、さらにはLF社の親会社であるライブドアに連結売上計上することによってライブドアの好業績を装うことを企て、東証の適時開示制度によって、不正な内容の株式交換比率であるにもかかわらず第三者機関が算出した公正な比率であるかのような事実と、VCJ社の四半期業績に関し虚偽の事実を公表し、もって、VCJ社株式の売買のため及び同株式の相場の変動を図る目的をもって、偽計を用いるとともに、風説を流布した。

 要は、ライブドアの好業績を装うために、まず、不正な交換比率により上記ファンド(実質はLF社)に過大な株式を割当て、ファンドによる売却(実質はLF社)のために今度は、VCJの業績も架空し、その株価をつり上げて売却し、ファンド(実質はLF社)に不正な売却益を与え、ライブドアの連結売上に計上してその目的は達成したというものです。

(3)争点に関する裁判所の判断
 本事件では、(1)と(2)において共通して争われ、かつ本件で最大の争点となったのが、子会社がファンドを通じて保有する株式を売却した場合、その売却代金を売上計上できるかどうかという点でした。

 そのため、裁判では、会計の専門家などが、侃々諤々の議論を戦わしました。ただ、裁判所は、この会計論争に深入りすることなく、ファンドは脱法目的のダミーであるから、ことの実体は、子会社が保有する親会社株式を売却し、子会社が売上計上したものであって違法な会計処理であると判断しています。

 私も見るに、検察官が提出した証拠を評価すれば、本件事件で登場する複数のファンドは、子会社が親会社株式を保有できないという法律の規定を回避するために組成されたと評価されてもやむをえず、脱法目的のダミーであると言われても仕方がないと思います。株式交換などの手法が登場し、非常に複雑で争点が理解しにくいところがあると思いますが、要は、ファンドがダミーかどうかであり、一連の関係者の意図、行為を評価すれば、脱法目的のダミーと評価されてもやむをえないということです。

3 量刑の理由
 そして、最後に、第1審と控訴審裁判所は、堀江氏に、2年6月の実刑判決を課す理由として、詳細な量刑の理由を述べていますが、その要諦は、以下の通りです。

(1) 本件各犯行について
   本件各犯行は、適時開示において虚偽の事実を公表し、また、有価証券報告書に虚偽記載を行ったもので、情報開示制度を悪用した事案である。

 近年の証券取引において、個人投資家の自己責任が強く求められるが、そのためには財務内容等に関する正確な情報開示が投資家に対してなされることが必須である。そして、その情報に虚偽があれば、多くの投資者に経済的損失を被らせるとともに、市場に対する投資者の信頼を失わせる。

 しかるに、本件各犯行は、その制度の根幹を揺るがすものであって、証券市場の公正性を害する極めて悪質な犯行である。

 虚偽有価証券報告書の提出についてみると、ライブドアでは、投資家が期待するほどは業績が上がっていなかったのに、平成16年9月期の経常利益を、利益計上の許されない自社株式売却益を見込んで、20億円、30億円、さらには50億円に上方修正する一方で、同年9月期の決算は、真実は約3億円の経常損失が発生していたにもかかわらず、第1四半期から第3四半期にかけて約37億円の自社株式売却益を計上したほか、これに加えて期末に15億円を超える架空売上げを計上して、経常利益を約50億円にして上記業績予想値を達成したように見せかけ、有望な企業の姿を装ったものである。

 こうした犯行は、損失額を隠ぺいするという過去の粉飾決算事件とは異なり、投資者に対し、飛躍的な収益を達成している成長性の高い企業の姿を示し、その投資判断を大きく誤らせ、多くの市井の投資者に資金を拠出させたというものであって、粉飾額自体は過去の事例に比べて必ずしも高額ではないにしても、その犯行の結果には、大きいものがある。そして、このような粉飾した業績を公表することによりライブドアの株価を高騰させ、結果として、同社の時価総額を、平成15年9月末には約295億円、平成16年9月末には約2528億円、平成17年9月末には約4689億円と増大させたものである。一般投資者を欺き、その犠牲の上に立って、企業利益のみを追求した犯罪であって、その目的に酌量の余地がないばかりか、強い非難に値する。

 その結果が大きいことは、株式分割等により、平成16年9月末の時点の株主数が約15万人に達し、それらの株主は、本件発覚後、株価の急落、あげくは上場廃止によって投下資本を回収する術も事実上失い、多額の損失を被ったものと認められる。

(2) 堀江氏の個別情状について
 堀江氏は、ライブドアの大株主であり、本件犯行の結果、保有する株式の時価総額が増大し、平成17年にはライブドア株式約4000万株を売却して約140億円の資金を得ているのであり、これを量刑上看過することはできない。

 さらに、堀江氏は、本件各犯行を否認し、公判廷においても、客観的に明らかな事実に反する供述をするなど、不自然、不合理な弁解に終始しており、多額の損害を被った株主や一般投資者に対する謝罪の言葉を述べることもなく、反省の情は全く認められない。

 以上によれば、堀江氏の刑事責任は相当に重いというべきである。

3 量刑に関する私見、村上ファンド事件との違い
 村上ファンド事件においても、第1審判決は、要旨、「村上氏は、買い集めた株式を高値で売却するために、フジテレビをメイン、ライブドアをサブとして両天秤にかけ、フジテレビとライブドアをいいように操り、両者を競わせ、最後には甘言を弄して仲間に引き入れた堀江氏を裏切ってまでして多額の利益を獲得しているのであるが、これを村上氏は、「ファンドなのだから、安ければ買うし、高ければ売るのは当たり前」というが、このような徹底した利益至上主義には慄然とせざるをえない。」、「村上ファンドが得た類例を見ないほどの巨額の利益は、不公正な方法で一般投資家を欺き、不特定多数の損失の上に得られたものであり、証券市場の信頼を著しく損なうものである。」などといって実刑判決を出しています。しかしながら、「安ければ買うし、高ければ売る」のは資本主義経済におけるイロハのイであって、これを非難されたらビジネスに従事する者の立つ瀬がないことになります。また、一般投資家は高騰した株価で保有株式を売却できたはずですから損失はありませんし、一般投資家を欺くという行為もありません。ライブドアが高値づかみをさせられてしまいましたが、その後さらに高額の価格でフジテレビに引き取ってもらい巨額の利益をあげたことはご存じの通りです(詳細は、村上ファンド事件)。

 したがって、控訴審判決は、懲役2年執行猶予3年の判決とし、最高裁もこれを是認し、村上氏は塀の中に落ちませんでした。

 これに対して、堀江氏の場合は、裁判所が量刑の理由でいうところは、大体あたっています。
堀江氏らの行ったことは、投資者に対し、粉飾決算という手法により、これまでの粉飾決算事案(脱税等の目的で、売上や利益を過少に計上)とは異なり、飛躍的な増収増益を達成している成長性の極めて高い企業のような姿を示すことによって、市井の投資家の投資判断を大きく誤らせ、これた投資家の買いを誘い、資金を拠出させたというものです。堀江氏は、当時、企業の発行する株式の時価総額が増大させることが企業家の使命であり、それがまさに企業価値の評価であると主張し、株式分割なども行いながら、時価総額を膨らませて行きました。上記の通り、平成15年9月末には約295億円、平成16年9月末には約2528億円、平成17年9月末には約4689億円と増大させていったのです。しかし、ライブドアの業績は粉飾であるわけです。会社業績を見ながら株式投資に励むまじめな株式投資家にとって、経常利益が20億円、30億円、さらには50億円に上方修正されるような会社は注目の的となり、株価が高騰していくのは当然のことです。しかしながら、その利益は、錬金術的な手法によって計上された中身のない利益であるのですから、有望な企業の姿を装ったものであって、これをやられたらまじめな投資家はたまったものではありません。堀江氏らは、こうしたことを怖い者知らずの若者達のイケイケどんどんという乗りでやっちゃったというのが本事案の本質でしょう。

 判決のいうように、堀江氏らは、一般投資者を欺き、その犠牲の上に立って、企業利益のみを追求した犯罪であって、その目的に酌量の余地がないばかりか、強い非難に値するといわれても仕方がないと思います。

 この点が村上ファンド事件との根本的な相違だと思います。